国語の力、語彙力は全ての教科に関わる

国語の力、語彙力は全ての教科に関わる

6年生の国語授業で、漢字学習を子どもたちが中心となり行うと伺い拝見させていただきました。こちらでは今年度より「漢字のとびら」を2年生から6年生で活用いただいています。漢字学習を通し、子ども同士が教え合い、学びを深めていく姿がとても印象的でした。国語授業の取り組みも含め、校長先生、学習指導主任の先生よりお話を伺っています。

日本教育新聞「企画特集」と併せてご覧ください。
日本教育新聞「企画特集」2018年1月22日PDF

授業改革と国語力育成

― 1時間を漢字学習にあてた授業は初めて見ました。貴校は国語の授業に限らず、普段から先生があまり前に出ない、子ども主体の授業をされているように感じました。子どもの発言を上手く繋いでいく授業で、これからの時代を予見させられるものでした。クラスの子どもたちも、それが自然にできています。貴校の授業スタイルそのものが、子ども主体であることがよく分かります。分からない熟語が出てきたら、その場ですぐ辞書を開いて意味を調べていましたよね。その姿はとても自然な姿として映りましたね。

学習指導担任 稲葉晃一先生

稲葉先生: ありがとうございます。本校は平成22年、栃木第一小と栃木第二小が統合され、栃木中央小として開校しました。当時から「かかわり合いの中で、自ら学ぶ子どもの育成」を研究主題に掲げ、授業研究を進めてきました。先生の中には、子どもの繋がりや関わり合いを大事にする授業スタイルができています。一方で、教えるべきところは教師がきっちりと教えなくてはいけません。そこはメリハリを付けて授業をするように心がけています。逆に基礎・基本を活用するような場面では、教師が課題を与え、子どもたちの力で解決する、という授業スタイルを各教科で行っています。今日の授業でも、短文づくりの場面では、子どもたちが教え合ったり、確認し合ったりしていましたよね。辞書を引く子もいました。辞書は日常的に使っています。全ての授業がそうなので、子どもたちにとっては自然な事になっていて、抵抗感はありません。むしろ友達と勉強することでより深く理解出来たり、新しいことを発見したり、困ったところを解消できる、そのような感覚を持っていると思います。

学校長 玉田浩先生

玉田校長: 今は電子辞書や携帯、スマホで全部調べてしまうような時代ですよね。でも辞書を使うと、調べた語句や漢字だけでなく、他の語句も一緒に覚えられます。電子辞書だとその語句の意味しか覚えられないですからね。
 これは本校だけの課題でなく全体的に言えることだと思いますが、子どもたちの語彙力の低下を非常に強く感じます。語彙力と読解力は関係があるのではないでしょうか。結局算数の問題を解こうとしても、何を問われているかが分からない、答えとして何を書けばいいのか分からない場合もあります。また課題解決の際には、何を求められているのかは分かるのだけど、そこに必要な情報をどの文章から引っ張ってくればよいのかを見極める力が足りない。
 特に全国学力学習状況調査で出題されるB問題は、読み込むことが難しい。最後まで読まずに諦めてしまう子がいます。決してやる気がないわけではないと思います。解きたいという気持ちがあっても、語彙力が乏しいとひとつひとつの意味が頭に入ってこない。すると気持ちが萎えてしまうのでしょう。そのような意味からも「言葉」=「語彙力」をこれからもっともっと子どもたちの中に増やしていかなくてはいけない、と思います。その力がないと、問題に臨むステージに上がることができない気がします。
 子どもにとっての学習言語、指導する際の用語や教え方について、学年、強いては学校で統一した授業をしましょう、と決めました。この用語を使えば、どの子どもたちにも同じ意味で伝わるようにしましょうと。そこから派生して、語彙力が上がっていけばいいのかなと思います。授業だけでなく朝の時間を活用して、読解問題にもチャレンジしています。読書もしていますが、複合的に行うことが大事ではないかと思いますね。

― 子どもたちは、文章で表すこと、表現することにも慣れていましたね。

玉田校長: 1時間の授業にはねらいがあります。子どもは初めに「ねらい」をノートに書き、授業の終わりには「振り返り」を書きます。「振り返り」は、「よくできた」や「○、×、△」だけでなく、今日の授業で自分が分かったことや、こんなことができるようになった、こんなことを感じた、考えた、という事を文章で書くようにしています。6年生は、どの教科の授業でも原則はそのように指導していますね。勿論、例外はありますが、書くことに関して、子どもたちはそれほど抵抗なく取り組めるようになっています。いろいろな教科、様々な単元で、意外と下の学年でも書けていますよ。それは6年生だけでなく、どの学年もそうなりつつあるかな、と。
 そのような意味でも、国語は全ての教科に関わってきますよね。漢字が使えるとか、語彙力が豊富かどうかは全ての教科の基盤になっていると思います。

「国語」を研究課題とした授業改革

稲葉先生: 本校では、総合的に学力を伸ばしたいという目標が開校当初からありましたが、その中でも、国語の力が少し弱いなと感じていました。文章が読めない、読めても理解ができない…。ですから、今から3年前に、まず国語に力を入れようと考え、授業研究をスタートさせました。
 その際、子どもに教える前に、まず教師の方に共通認識が必要だと思いました。今までの国語の授業では、担任の先生がバラバラな用語を使って国語を教えていました。結果として子どもたちは、先生からいま、何を課題として与えられているのか、何を問われているのかがよく分からなくなっていました。その時、当時筑波大学附属小学校にいらした白石先生の「10の観点」(*研究資料参照下さい)に出会い、本校の教員の中で話し合った結果、参考にした授業を行うことで、国語の授業の統一を図ろうと試みました。
 例えば白石先生の「10の観点」の中に、「中心人物」という用語があります。今までは「中心人物」に対して、「主人公」や「登場人物」のようにそれぞれ先生がバラバラな用語を使っていました。前年度と今年度の先生の使う用語が違うと、子どもは混乱します。「中心人物」というのは、登場人物の中で、心の変容をした人物のことです。そう定義して、どの学年でもその用語を使った授業をし、子どもたちに伝えれば、どの登場人物が中心人物に当たるのかがきちっと探しだせるようになります。教師がそのような授業を1年間通して行ったところ、子どもたちにもそれが浸透していきました。白石先生は教材分析も「10の観点」で行う方法を示されています。次はそちらを参考にし、「10の観点」で子どもたちに教材をどのように教えたらよいのかを考えていくうちに、教材分析自体を「10の観点」で行うようになりました。教材文を「10の観点」で見ていくと、教材文(物語文、説明文)を主語意識や段落意識、文意識というもので見るようになり、全体的に文を捉えられるようになりました。2年目は、「10の観点」を踏まえ、授業の中での発問はどのようにしていったらよいのかを研究しました。さらに今年度は、「単元を貫く言語活動」に焦点を当て、ひとつの単元を通してどんなスキルを身に付け、最終的にどのような力を付けるのか、に着目して授業を行っています。

「漢字のとびら」との出会い

稲葉先生: 本校はそのような経緯で授業改革を行ってきました。国語に力を入れていましたら、国語の力は随分とついてきました。つぎは算数をもう少し頑張らないと、と考えています。算数では基礎・基本に活用力をつけさせたい。基礎から活用への受け渡しを考えまして、教員間で相談した結果、今年度からアイテム算数を使うことに決めました。さらに白石先生の「漢字のとびら」が新しく出ると聞きました。本校はずっと白石先生の教えを踏襲した授業をやっていました。漢字学習に対しても、私自身が思ってきたことが詰まった教材だなと感じました。私も実際に新出漢字を子どもたちに教えるときは、「ここが間違いやすいよ」「こういう間違いをする子がいるよ」など、「漢字のとびら」に近いことをしていました。「とめ」「はね」「はらい」のポイントも同様でした。「こういう間違いをした子を先生は知っているよ」という教え方をしたほうが、子どもたちの中により印象が残り、間違わずに書けるようになります。
 「漢字のとびら」には、この漢字は正しい?間違っている?本当に○?と考える場面がたくさんありますよね。書き順についても、ここは何画目なんだろう、という事を意識させるようなものを使ってみたいと、個人的には強く思いました。ですから教材選定の際に、「アイテム算数」と「漢字のとびら」を来年一緒に使ってみませんかと、提案しました。教務主任の先生にもご理解いただいて、今年度の採用となりました。1年生は平仮名、片仮名を重点的にやりたいっていうお話がありましたので、今年度は「漢字のとびら」は2年生から6年生で導入しています。Web上にある確認テストも活用しています。やはり、最後は正しい漢字が書けるかを確認することも必要ですので。子どもたちは「漢字のとびら」を楽しくやっているように見えますよ。教え方というよりも、自分で楽しめるから、進んでやっているっていうように思います。以前は漢字練習を嫌々やっている子も中にはいましたから…。

新出漢字を授業で扱う

― 今日の授業は、事前に新出漢字を子どもに割り当てていて、前日に書き順や間違えやすいポイント、熟語を考えて、みんなにクイズ形式で出す、というやり方をされていましたね。「漢字のとびら」の要素を学習活動の中にうまく生かしていらっしゃいました。

稲葉先生: 増渕学級の漢字の授業は、私も初めて見ました。「漢字のとびら」の中には、新出漢字のページに「ここが間違いやすいよ」という例を挙げています。多分、子どもたちは下調べの段階でそこをヒントにしながら(わざと間違った漢字を黒板に記し)「間違いを探してください」と出しているのかなと思います。「書き名人」のページから問題を出している子もいましたよね。『漢字のとびら』で漢字をただ練習するだけでなく、書き方や覚えるときのポイントを子どもたち自身が参考にしながら学習していますね。
 教師自身、正しい漢字を示すことが正しく覚えることに繋がる、と当然のように信じてその学習方法を選んで行っているのではないでしょうか。今日の授業で、増渕先生は「延」の漢字に対して「他にもこんな間違いをした子を先生は知っているよ」とつけ加えて教えていました。間違えた漢字を見せると、子どもたちには強く印象に残るものだなと、思いました。

― あえて「漢字のとびらと同じじゃないけど分かる?」というように、自分で考えてきた子もいましたね。チャレンジすること、考えることを楽しんでいますね。担任の増渕先生の関わり方がタイミングよくうまくリードしていました。漢字学習を「覚える」ためのご指導ではなく、子ども自身が「何でだろう?」「どこだろう?」とよく見て考えるように促す言葉掛けをされていると思います。与えられた学習ではなく、自分で気付く学習ですね。漢字学習の中でも、今日のようなご指導ができるのだ、と発見させられました。
 新出漢字以外の3ページ目、4ページ目にある「書き順名人」「送り仮名名人」「書き名人」はどのように進めていますか?

稲葉先生: 新出漢字が事前に割り当てられている子どもが黒板に(熟語や間違い探しなどを)書いている時間は、新出ページ以外の「○○名人」をやりながら待っています。そして残りのページ、終わっていないページは宿題としています。新出漢字は3ページ(漢字15字分)くらいまとめてやりますので、1時間で15人、クラスの半分くらいの子が次から次へと黒板に出てきて発表することになりますね。新出漢字の授業は毎回このようなスタイルです。

使える漢字へ導く

― 確認テストの後に、好きな漢字を使って短文を作るというのはいいですね。折角覚えた漢字は使わないと。文章作りには個性が見えました。3つの漢字の文章をストーリー仕立てで書いている子がいて面白かったです。

玉田校長: 反復学習を全く否定するわけでもありません。それも必要だと思います。しかし、ひたすら黙々と漢字練習をすることで、漢字を使えるようになるかどうかは別ですね。

稲葉先生: 今日は授業内で(確認)テストまでやりましたが、通常は新出漢字の学習だけを2~3ページまとめてやります。宿題や家庭学習で練習や復習をし、自分なりに覚える時間を持った後に確認のテストをします。テストの後に、テストで出た漢字を使った文を作ることで覚え直しをする、というような流れがいいのかなと思います。短文づくりは毎回やっていますので。確認テストより短文づくりの方が好きな子もいます。書くことが苦ではなく、楽しんでいますね。
 確認テストで間違えた漢字、書けなかった漢字はその後自分で練習する、という自主性も大事にしたいですね。本校は自主学習を進めていますので、自分で「きちんと覚えなくてはいけない」と思う子は自主的に書き直しをしている可能性はありますね。各自1冊、自主学習ノートとして最低1日1ページはやろう!と言っています。何ページやってもいいですし、どんな科目、内容でもよしとしています。

先生方の中で共有する

― 本日は6年生の漢字学習の授業を見させていただきましたが、これはどの学年でもやられているのですか?

稲葉先生: 本日のような授業は6年生のみでしょうか。学年ごとに活用方法について話し合うこともありますが、学年を超えてまではまだ統一されていない気がします。今年から使い始めていますので、この1年は慣れるまでなかなか…という気持ちもあると思います。

玉田校長: 先生方も、今年は色々と試行錯誤しながら、ではないかな。今後、情報交換をして「この使い方よかったよ」という事例やサンプルを増やしていく事は重要だと思っています。学年の発達段階に応じて、学校全体で一定の方向性を見いだせたらいいですね。使える漢字を身に付ける学習方法、のように。

稲葉先生: 本校は学期に一度、「ラウンドテーブル」という研修を行っています。先生方が自分の授業研究や取り組みを文面にし、全員で協議するというものです。その場で今日のような楽しい漢字学習のやり方を紹介することで、校内に広がることはあると思います。

― 読書活動など、何か推奨しているようなものはありますか。

稲葉先生: 必読図書というものをしています。各学年で10冊程度です。本ごとに「ひと言感想を書いてみよう」ということもしています。単元によっては、国語の教材文に関連した本を並行して読む「並行読書」をしています。教材文で学んだスキルを使ってその本を読み、最後にその本の紹介文を作るという活動で、いわゆる単元を貫く言語活動ですね。「並行読書」という形で、本当に力を入れている場合などは図書館から借りてくる、市立図書館から借りてきてというような形でやる場合もあります。実施回数は、年間1回とか2回程度ですが・・・。

玉田校長: 並行読書の場合はかなり時間がかかります。限られた単元時間数の中だけで行うには限界がありますが、考えを深めるのには有効な手立てだと思いますね。

本日はありがとうございました。

資料…漢字学習の流れ

①発表者は事前に割り振られ、事前に間違いポイントなど調べておきます

②子どもが黒板に書いている時間に、子どもたちは各自漢字学習をします

③新出漢字について、間違えやすい点や部首の説明などを子どもたちが発表します

④間違いやすい所を確認し、丁寧に練習をします

⑤例文や熟語など分からない時は、友達と調べたり確かめたりします

⑥最後は確認テストで力ためし.丸付けもこども同士で行います

研究資料

平成27年度 学校課題研究テーマ

課題研究テーマ補足資料

※『白石範孝の国語授業の教科書』(東洋館出版社)を参考にしています。

国語の授業(ワークシート)

活用校の声 一覧ページへ