機械的な繰り返し学習からの脱却を
~学びに向かう必然性を持たせる~

たつの市立揖西東小学校(校長 伊藤忠司先生)では、昨年度から段階的に『漢字のとびら』を導入し、漢字学習の工夫に力を入れています。指導のなかの漢字学習の位置づけと、子どもの変容について、伊藤校長先生と酒谷教諭にお話を伺いました。

機械的な繰り返し学習からの脱却を

日本教育新聞「企画特集」と併せてご覧ください。
日本教育新聞「企画特集」2019年1月28日PDF

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子どもの興味関心をいかに向かせるか

子どもの興味関心をいかに向かせるか

伊藤校長: 私は若いときからずっと理科専門でやってきまして、社会科も長い間担当しました。理科でも社会科でもそうですが、興味があることはちゃんと人の記憶に残る。大人でも子どもでも、本人の興味がないことは何度言っても覚えられない。
我々が子どもの頃の漢字学習と言えば、本当に「これ書け、これ書け」。「1ページ分書いたら覚える」と繰り返したけれど、ただただ眠くなるだけで。
それよりも、例えば、子どもに「元日と元旦とどう違うか」と問いかけてみる。教師でも同じように急に聞かれたら詰まりますが、まずは「字で書いてみようか」と。
「元は一緒だけど、日と旦は違うよね。」
「何が違うって、1本線があるね、この1本なんだろう。」
「これ、地平線じゃないかな。地平線から日が上ったところ。」
「だから、元旦というのは、元日の朝なんだ。」と。
そうしたら、「これと同じで、線で分ける漢字が他にもあるはず。」と言うと、子どもも「他にそんな漢字あるだろうか」と自ら探し出す。
漢字にかかわらず何でも、重要なのは必然性をどう持たせておくかということです。学ぶ必然性と難しく捉えなくても、子どもは「なんでだろう」と思ったらとことん答えを探しに行きますよ。ゲームのように、やる必然性を自分で探してくる。行くぞ、行くぞってとことん行きます。その意識を持たせるのが、教師のプロたるゆえんですよね。
一度課題をつかむと、それから見通しを持つ。「ああでもない、こうでもない。」でも、「これだ!」と自分で見つけたものは自分で解決してみる。結局、子どもたちの興味関心をいかに向かせるかが大切で、それができるのが教師です。

筋トレのような漢字学習を打開したい

筋トレのような漢字学習を打開したい

― 酒谷先生ご自身が『漢字のとびら』に出会ったのはいつ頃ですか。どういったきっかけで手に取られたんですか。

酒谷教諭: 二年前、研究会のブースで『漢字のとびら』と『アイテム算数』を見かけたのが初めでした。
これまで漢字の指導のなかで、ただ繰り返し、筋トレのように練習させることが本当に子どもの力になっているのかどうか…それって子どもたちもしんどいと思っているし、チェックする私たちも大変だし。その上、間違った書き方を繰り返しやって、間違ったまま定着してしまうこともあって、何とかそれを打開したいなと、変えていきたいなっていう思いがありました。
そうした時に、『漢字のとびら』に出会い、見本品を取り寄せ、絶対、次の年採用しようと思いました。

漢字のとびら

紙面もすごくシンプルにできていて、間違いを正す問題や、何画目という切り口での問いがあるのも新しく感じました。私は採点をするときに、「画数が合ってるか」という点と、「違う意味にならないか」という点を、基本的に見るようにしているんです。例えば、「土」という字と武士の「士」という字だったら、画数は一緒だけれど、横画の長短が変わるだけで、意味が変わってしまう。そのように画数や形を強く意識させ、法則性を子どもたちに意識させることができるところが、『漢字のとびら』の魅力だなと感じました。
昨年は単学級の6年生を担任していて、その学年の子たちが、特に反復練習を嫌う子たちだったので、これはチャンスだなと思いました。
「こんな紙面構成になっていて、薄くて、繰り返し書くところも①なぞって書く、②上の漢字を見ながら書く、③自分で書くという3回で徹底されているよ。練習問題も考えながら書くというコンセプトで作られているものです。自分でやってみて答えで確かめるっていうパターンでやりましょう」と紹介し進めてみたところ、子どもたちはすごく喜んだというか、ちょうどその学年の子たちにぴったりはまったようでした。

漢字のとびら

そうしているうちに、「なぜか分からないんだけど漢字テストの点数がどんどん上がっていく」とか、「繰り返してない、何回もやってないんだけれど覚えられるのが不思議」といった声が子どもたちから出てきました。「漢字は絶対100点」とか「98点」という高いレベルでできるということが、「他の科目でも私はできる!」とか、「次はこれをがんばってみたい!」という子どもたちの自信や、やる気につながったと思います。

― 子どもたちの反応に加え、先生ご自身が使っていて教えやすいとか、ここは他の漢字ドリルと違うなと感じるところはありますか。

酒谷教諭: 教える側として一番良いところは、子どもがその漢字で間違えやすいポイントが、あらかじめ紙面に示されていて、練習問題としても挙がっている点ですね。
私たち教員は、毎年学年を替わりながら子どもたちに授業をしています。本来であれば全てのことをちゃんとマスターしてないといけないのだけれども、残念ながらできることには限界もあります。教師人生は一回しかないですし、子どもにとってもその学年は一度しかないですよね。指導のポイントがあらかじめ示されていることで、私のようなベテランではない者でも、先輩の先生方が研究された間違えやすいポイントを自身の指導に取り入れられるというのはありがたいところですね。

― 指導のなかで、「ここ、間違えてるよ」と子どもの間違いに出くわしてはじめて、先生も「あのとき正しく教えられていなかったから」と気づかされるのですよね。

酒谷教諭: 国語の授業では、ずっと漢字をやっているわけではありませんよね。物語文を学習して説明文を学習して、書くことも…。そのなかで漢字学習は授業での扱いにくさがどうしてもあって、子どもの興味関心を考えず、ただ単に筋トレのようなドリル学習になりがちな部分もあるのかもしれないです。
ただ、小学校で学習する漢字、約1000字を、全部一個一個覚えていくのは大変ですが、『漢字のとびら』で示されているように、「左右に別れる」「上下に別れる」パターンとか、「しんにょうが付いている」パターンといったような、いくつかのきまりやパターンに分けた学習が進められれば、もっと効率よく漢字学習の定着もはかれるのではないかな、と感じています。

漢字学習を通じて子どもの変容をみとる

漢字学習を通じて子どもの変容を看取る

酒谷教諭: 昨年同様今年も、子どもたちにアンケートを取りました。『漢字のとびら』のいいところと、直してほしいところという二点。3年生というのもありまだまだ言葉が粗削りなところもあったりもするんですけど。

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「いいところは、考えて書く問題があるところ。直してほしいところは、間違いを直す問題の違いが細か過ぎて分からないところ。書き順や読み仮名もすぐ頭に入るようにしたい。」
「たくさん漢字を習わないといけないのに、繰り返し書くページが少なくてとても楽。」
「さんずいなどの部分だけ黄色に塗ってあるから分かりやすい。」
「子どものニーズに合わせている」
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酒谷教諭: 最後の表現は、ちょうど社会科でスーパーマーケットの学習をした後だからでしょうね。スーパーマーケットではお客さんのニーズに応えて、さまざまな工夫をしているんだねという。

伊藤校長: 他教科での学びが生かされている。素晴らしい。「君たちのニーズは何だろう」と聞いたら「冊子が薄くて、楽に早く覚えられて」ということかな。

子どもを主体的にさせる漢字学習とは

子どもを主体的にさせる漢字学習とは

伊藤校長: 本当は、「漢字の中にロマンがある」なんて話をしたいのにな。
ちょっと面白い話をすると、こだわりますからね。「ねえ、国という漢字、書いてみて」と言って書写の時間に「国」を書かせたんですよ。最後の一画、くにがまえに隙間がある「国」を書く子どもが結構多いんですよ。「この国だと、ここの隙間から攻め込まれたらすぐやられてしまうぞ」という話をしてみたりして、くにがまえは閉めるぞとしっかりした字を書かせる。
面白さを知ったら、子どもは自分で活動していく。子どもでも大人でもね。難しい言葉使ったら、それが「主体的な学び」だけどね。

― 子どもの意欲や主体性ということでは、漢字学習から他の学習への影響や、学力として反映されている実感などはありますか。

酒谷教諭: ささいなことですけど、例えば社会や算数など他教科で、黒板に書く文字がまだ習っていない漢字の時があるじゃないですか。そういった漢字に子どもが出会った際に、「どうする?」とか、黒板に書いてみて「読める?」とか聞いてみます。「『通』と『痛』は共通の部分があるから『つう』と読めるはず」とか「糸へんに『公』と『心』を合わせたら『総』という字になるんだから、書けるよ」というように、漢字の共通点を見つけたり漢字を組み合わせたりして覚えている。
今のクラスの子ども達に「習ってない漢字だから使いません」という考え方はありません。国語以外の教科でも、難しい言葉や曖昧な言葉は国語辞典や漢字辞典を活用しながら学ぶ姿勢が見られます。授業のなかでちょっと背伸びする喜びといいますか、子どもが自分から学びに向かっているなという実感は、そういったところからも感じています。

School Data

たつの市立揖西東小学校

〒679-4004
兵庫県たつの市揖西町清水新9
児童数:273名

資料…授業の中での漢字学習の様子

4人一グループで、2分間の漢字クイズに取り組みます。第一問は「木へんの漢字」

一人一字ずつ漢字を書いて、次の子どもに回します。第二問は「五画の漢字」

グループで解答用紙を交換し、子どもが採点します。時間内に一番沢山書けたグループが、黒板にその漢字を書き、共有化をはかります。習っていない漢字は、漢字辞典を引いて確認します。

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