これからの漢字学習
~対話力、表現力を高める~

札幌市立西園小学校

日本教育新聞「企画特集」と併せてご覧ください。
日本教育新聞「企画特集」2020年1月20日PDF

漢字学習で問う力を狙う

記者:『漢字のとびら』は使用して2年目で2年生から6年生までとお聞きしていますが導入のきっかけをお話しいただけますか。

鳥丸教頭: 本校でも採用している『i・tem算数』を私は前任校でも導入しておりまして、そのつながりでこの『漢字のとびら』を知りました。本校の子どもたちは非常に素直で、全般的には聞く力は高いのですが、そうではない子どもおり、二極化が内在していました。その聞く力から一歩進んで自分から発信したり、友達と関わりあったりできれば、二極化は縮まるのですが、実はそれこそが課題なのです。学力面においても二極化の傾向が見られ、中間層が比較的少ない特徴がありました。二極化している子どもたちの両方に対応している教材は、ドリル教材では難しいと考え、『i・tem算数』やこの『漢字のとびら』を2年前から使い始めたのです。

― 二極化に対応できる教材が必要だったのですね。

鳥丸教頭: 学校として6年間の育ちを基軸として、しっかりと持っていなくてはいけないわけですが、教員が同じ方向を向いて子どもたちに対応しなければなりません。各教員が子どもたちを見るとこはもちろんですが、学校全体としての基軸をしっかり持つことが必要で、6年間の育ちを支えるうえでも、ある程度教材の統一化も必要であると考えています。

― なるほど、学校としての基軸のひとつが教材の統一化につながるのですね。

鳥丸教頭: 学習においては子どもたちが色々な問題にあたること、様々な角度から問題を捉えてみることが必要ですね。学習したことが分かって、自分からも取り組めて、さらに難しい課題にも挑戦できる…やさしい問題、少し骨のある問題、分からない問題にも取り組める教材はそう多くはないのです。

― 『漢字のとびら』は他の漢字教材とどこが違うとお考えですか。

鳥丸教頭: 3つの点が違うと思いました。まず、練習量が少ないというコンパクトさです。そのぶん細部に注意を払って丁寧に書くようになったと思います。次に『i・tem算数』同様に見方、考え方を広げることで、漢字に対する興味・関心が子どもたちに湧きやすいと思います。最後に情報量も他に比べて圧倒的に少ないのもよいと考えています。情報量が多すぎると受け止めるのが精一杯で、考える余裕が生まれてこないのだと思います。私は個人的に子どもたちに問う力を付けてあげたいのです。どう問えばよいか、質問するためには、理解し考えることが必要です。つまり、自ら考える力につながるのです。

― 子どもが自分から見付け出す問いですね。

鳥丸教頭: そうです。自分から問題を見付けるということです。漢字に対する問う力。漢字にはいろいろなファクター(要素)があると気付き、興味をもてば、いろいろな視点から考え、見えるようになります。単に書き順通りに書くだけではなく、授業の中でも見られましたが、部首に目をやってみたり、読み方や熟語を考えてみたり、気を付ける留意点や書き順に着目したりと子どもたちの興味は広がるのです。同じ読み方《後悔》《公開》で迷う熟語があったりしますが、どの漢字を使えばいいのかなどの視点で問う力を付けてもらいたい。そこで目に留まったのが、間違えをあえて仕掛ける『漢字のとびら』です。子どもたちの興味関心を育てることを試みることに価値があるのではないかと思いました。

― そんな問う力を実現できるのが『漢字のとびら』だと思われたのですか。

鳥丸教頭: 実は『i・tem算数』に関しては、前任校の経験からも自信はあったのですが、『漢字のとびら』については現場の先生方と話し合いました。漢字学習に割く時間を効率よく使い、見方、考え方を広げながら身に付けられて、なおかつ家庭学習でも楽しく学べる可能性があるのではないかと思い、本校での採択になりました。

間違いを学びにつなげる

記者:昨年一年間使用してみて先生方や子どもたちの変化は見られましたか。

鳥丸教頭: 先生方は活用の仕方に色々と苦労しているようです。これまでのドリルでは子どもたちからの発問などありませんでしたから、先生方は指示をするだけで迷うことなどなかった訳ですね。ところが、この『漢字のとびら』で学習すると、子どもたちに色々な視点が芽生えますので、出てくる質問が自然と多くなり観点が広がって、解決していかなければならない問題が増える訳です。

― 子どもたちの質問に先生方は苦労されているということでしょうか。

鳥丸教頭: 一面はあると思いますが、しかしながらそれこそが子どもたちの活気のある姿になり、今まで教室の中でのクローズされた学習から広がって、家庭学習へとつながっていき、自ら探求する学習へとつながっていくのだと思います。

― 探求する漢字学習とはどういうものですか。

鳥丸教頭: 本校のあるクラスでは、漢字を使ったゲームやホワイトボードをつかった画数クイズ、他にも色々なことを試しているようです。これまでただ書くだけで終わっていた漢字の書き取りから、子どもたちが主体となって、楽しみながら漢字を学習できるようになってきたのではないかと思います。

― 『漢字のとびらは』子どもたちは楽しみ、先生方は苦労する教材ですか。

鳥丸教頭: 教員が苦労するというよりは、教員の引き出しを多くして、むしろスキルアップしているように思います。考えて活動につながる学習教材は、教員だけではなく子どもたちにも受け入れられているのでしょうね。子どもたちの書く回数もこれまでよりも減っているでしょうし。

― 書く回数が減っても子どもたちにはしっかりと身に付いているのですか。

鳥丸教頭: 子どもたちの書く回数を減らしたことを補うために、本校では全学年でデジタル教科書を活用しています。書き順や正しいバランスなど、見て頭の中でイメージしてインプットすることはこれで行い、書く作業、アウトプットで一致させることで、少ない書き取りでも補うことができます。これらの学習方法も学年や教員ごとに行っていたのでは、子どもたちも戸惑いますし、授業時間の使い方も偏りが出てしまいます。学校側が授業づくりの一端を示すことの成果は大きいと思います。

― 『漢字のとびら』を使用しての成果はあったと思われますか。

鳥丸教頭: 国語という教科の中から漢字、言語を取り出してみるということは、正直、難しいですが、ある学年で定点観測した結果を見ると数値は上がっていました。言葉に対する興味が、漢字の学習を通して広げられているのではないかと思います。その学年の学級人数は一番多いのですが、効率的な学習で人数の多い学年・学級でも成果があげられたことはよかったと思っています。算数でもそうですが、漢字学習にも考える習慣が、少し芽生えてきたのではないかと思います。

― 普段から考える習慣を身に付けることが大事なのですね。

鳥丸教頭: これは日ごろ行う算数や漢字テストなどで、無回答が減ってきたことでも見る事ができます。これまでは知らないことやわからないことがあると、諦めてしまっていたことにも粘り強く考えてみるなど、子どもたちの取り組む姿勢が変わってきたことが、教員の間でも実感できるようになってきたように思います。まだ習っていない漢字も読み方を想像してみたり、間違えていたとしても辞書を引いて確認してみたりと、子どもたちに主体性が出てきたのも成果ではないかと思います。

― 粘り強く考え、そして間違えも受容する漢字学習ですか。

鳥丸教頭: 言葉で「間違えてもいいと」いうことは簡単で、そういった指導もできますが、実際は言葉で言うほど簡単なものではないです。間違えた発言をした子どもだけではなく、周りの子どもたちがどう受け入れるか、間違えから学ぶ学習もある、それこそが大切なんだということを子どもたちが気付き、経験してチャレンジ精神を大事にしていかないといけないと思います。そこにたどり着くには教員の経験も大切ですね。

― 間違えを受容できるクラスづくりはどうしたらできるのですか。

鳥丸教頭: 一つには間違いに対する共感の仕方ですね。つまりその間違いが活かされる、評価されることが大切です。それには教員の技量(引き出し)も必要で、どう広げて着地させるか。言い換えれば学習をしていく過程において、間違えることや知らないことが前提なんだということを子どもたちに理解してもらうことが大事なのです。そういった土壌がないと発言する子どもが減ってしまい、これから目指す「主体的で対話的な授業」の実現は難しいのではないかと思います。

― なるほど、間違いを受容して学びに生かすことが、新指導要領にある「主体的、対話的授業」へとつながって行くのですね。鳥丸教頭先生ありがとうございました。次に授業を見せていただいた玉木教諭にお聞きします。授業の中での『漢字のとびら』活用についてお聞かせください。

玉木教諭: 教員によって活用の仕方はそれぞれあると思いますが、私のクラスでは複数の題材を終えた後に、この『漢字のとびら』を使用して学習をしています。新出漢字が出てくると音読み、訓読み、へんを確認して、熟語など子どもたちが知っている語彙を拾い上げて、既習の漢字は熟語として、未習の漢字は音だけでなく、使い方が正しいかどうかを楽しみながら進めています。

― 未習の漢字(熟語)も出てきたりするのですね。

玉木教諭: はい、子どもたちは色々な情報から非常に多くの語彙力をもっています。それらを音だけではありますが、今習った漢字と組み合わせることで熟語になると分かって、興味をもった子どもは辞書を引いて学習したりします。中には間違える子どももいますが、音はあっているけど漢字が違うのだと気付くことも学習だと思います。子どもたちは楽しみながら熟語を習得していますよ。

― これまでの漢字ドリルと比べてどんな印象をもたれましたか。

玉木教諭: 悪い意味ではなく、色々と足りてない教材だと思いました。大人が与えるのではなくて、子どもたちが作っていく教材なのだと思います。漢字学習の主体が、正に子どもたちにあるのだと感じます。練習マスも3つですし、熟語や例文などは殆ど書かれていません。これも自分たちで作り上げていくのだと感じられるところに、新しさがあるのだと思います。特徴的なのは、子どもたちが間違え易い部分が指摘された、誤った漢字が載っているところで、逆転の発想というか、非常におもしろいと思いました。

― 練習量が減ったことで漢字テストなどの結果に変化はありましたか。

玉木教諭: 本校では毎週水曜日にミニテストを実施しておりまして、凡そ8割を合格ラインにしています。テストの結果は、これまでに比べて悪くなったとは感じていません。むしろよくなったという学年もあると聞いています。自ら考え、学ぶ姿勢が生まれ、子どもたちの漢字に対する取り組みに、変化が見えて来たのだと思います。

― なるほど、量ではなく取り組み方なのですね。鳥丸教頭先生、玉木教諭、本日は、子どもたちに対する学校の取り組みや貴重なお話をありがとうございました。お忙しい中、取材にご協力いただきましたこと重ねてお礼申し上げます。

School Data

札幌市立西園小学校

北海道札幌市西区
西野1条7丁目4番1号

学校沿革
開校:56年3月25日

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