令和3年度 全国学力・学習状況調査分析

令和3年度 全国学力・学習状況調査分析

コロナ禍 2年ぶりの学力は

活用力の育成は引き続き課題に

日本教育新聞社寄稿

「全国学力・学習状況調査」の詳細についてはこちらをご覧ください。

 新型コロナウイルスの影響によって、昨年度の全国学力・学習状況調査は中止され、2年ぶりに今年5月に実施した調査結果が8月末に公表された。例年4月に実施してきた同調査が新型コロナウイルスの影響を考慮し、ひと月遅れになったように、児童・生徒の学力にコロナ禍がどういった影響をもたらしたか、また、小学校では「主体的・対話的で深い学び」を掲げる新学習指導要領実施後の初の調査に当たり、結果にどう反映したかも注目された。小学校国語・算数、中学校国語・数学の平均正答数と平均正答率を2年前(令和元年度)の調査結果と比較すると、大きな差異は見られなかった。だが、総じてこれまで課題とされていた活用力については、小学校、中学校ともに、その力を問うた設問での平均正答率の低さは変わらず、引き続き課題のままである。

■目配りしたい知識・技能の定着

 今回の調査対象となったのは小学6年生が公立・国立・私立を合わせて1万9280校(集計対象は1万9038校98・7%)、約106万人(集計対象は100万5600人)、同様に中学3年生が1万316校(同9680校93・8%)、約109万3000人(同93万2995人)。
 まず児童・生徒の学力調査結果についてみてみたい。
 小学校国語の平均正答数は14問中9・1問(令和元年度14問中9・0問)、平均正答率は64・9%(同64・0%)。
 最も低い正答率(29・8%)となったのは「面ファスナー」の問題の中の記述式の設問(2―四)。身近にある便利なものの調べ学習で「面ファスナー」を選んだ児童が読んだ資料を基に、与えられた条件の中で記述する問題である。「目的を意識して、中心となる語や文を見付けて要約することができるかどうかをみる」が設問の趣旨。
 学習内容自体は3・4年に位置付けられている。報告書では「学習指導に当たっては、同じ文章を読んでも、読み手の目的によって内容の中心となる語や文は異なるため、要約した文章も異なるものになることを確認することが大切」と指摘する。
 記述式の問題については、ほかに56・7%の正答率のものもあった(設問3―二)。気持ちよく学校生活をするために、かたづけを一人一人が責任を持つという児童の文章の下書きを使い、考えの異なる人を説得するために、下書きの文章を生かしながら、説得する文章を書くという設問。「目的に応じて、自分の考えが伝わるように書き表し方を工夫すること」に課題があると分析されている。この設問の正答率が5割を超えたのは、自分事として捉えやすい設問内容と受け止められたためではないか。こんなところに、求められる力を拡張するヒントがありそうだ。
 気になるのは、知識・技能の問題のうちの一つ。「学年別漢字配当表に示されている漢字を文の中で正しく使うことができるかどうかをみる」が問われた設問。先の下書きの中で「すみのほうにつみ重ねられています」の「つみ」を漢字に直すことを課した(設問3―三(1)ウ)。この正答率が54・6%。また、文の中の「修飾と被修飾との関係を捉えること」なども、基本的な事柄だが、正答率は43・8%と低い(3―三(2)オ)。知識・技能に類する基礎的なことの定着にも一層留意したい。
 小学校算数の結果は平均正答数16問中11・3問(令和元年度14問中9・3問)、平均正答率70・3%(同66・7%)と、今回の調査では、全体として最も高い平均正答率を記録した。
 学習指導要領との関係で言えば、「測定」、「変化と関係」、「データの活用」といった領域が正答率7割を超えたのに比べ、「数と計算」63・3%、「図形」58・1%の正答率が低くなった。
 「図形」では例えば、設問2(3)で、高さとそれぞれの辺の長さが示された二等辺三角形を組み合わせた平行四辺形の面積に関する問題。その際、面積の求め方、高さの求め方がわかるように式や言葉で書くことを条件に課した。この設問の正答率は46・2%。
 授業での指導について「方眼上の台形の面積を求める公式を導くために、等積変形をしたり、合同な図形を組み合わせて平行四辺形に変形したりする際に、変形する前の図形と変形した後の図形の関係を説明する活動が考えられる」と報告書では提案する。
 正答率の比較的良かった領域でも、濃淡がある。道のりと時間を使い、日常的な事象を数理的に捉え数学的に表現・処理する「変化の関係」を問う設問。
 速さと道のりを基に、時間を求める式を表す問題の正答率は85・2%とよくできていた。半面、道のりと時間を基にどちらが速いかを計算式で表したものから、何がわかるか、意味を選ぶ設問になると正答率は56・0%と低くなった。

■中・数学 低い平均正答率

 中学校国語の平均正答数は14問中9・1問(令和元年度10問中7・03問)、平均正答率は64・9%(同73・2%)。
 学習指導要領の領域などで見ると、「読むこと」48・2%、「書くこと」57・3%の正答率は、「話すこと・聞くこと」80・3%、「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」75・4%の正答率と比較すると見劣りする。
 設問中、正答率の最も低かったのは、夏目漱石の「吾輩は猫である」の本のカバーにある紹介文と、作品の文章の一部を示した問題。吾輩が黒猫の「黒」をどう評価し、どう接しているかを記述することと、その接し方についての自分の考えを述べることを課した。この正答率が20・8%。
学習指導要領における領域・内容は第1学年「C 読むこと」の「オ 文章に表れているものの見方や考え方をとらえ、自分のものの見方や考え方を広くすること」である。報告書では「文学的な文章を読んで自分の考えをもつためには、『構造と内容の把握』や『精査・解釈』の学習過程を通して理解したことを他者に説明したり、他者の考えやその根拠などを知ったりするように指導する必要」と学習指導へのアドバイスを送る。
 文学作品の扱いについては、これまでさまざまな考えがあったが、文章を読み取りながら何が表現されているかを理解するには、説明的文章であろうと、文学的文章であろうと一行の重みを踏まえた論理的な思考力が必要とされるとは言えまいか。
 中学校数学の平均正答数は16問中9・2問(令和元年度16問中9・7問)、平均正答率は57・5%(同60・3%)と、他の教科の調査結果に比べ、今回、前回共に正答率が最も低かった。
 学習指導要領の領域などで見ても正答率が6割を超えたのは「和と式」のみ。「図形」51・8%、「資料と活用」54・0%、「関数」56・8%と5割台に並んだ。問題形式では記述式が35・5%と低い正答率になった。
 メディアなどでは「砂時計」の問題(設問7(2))が割合と多く紹介されている。「与えられた表やグラフを用いて、2分をはかるために必要な砂の重さを求める方法を説明する」設問で、正答率は28・2%。「事象を数学的に解釈し、問題解決の方法を数学的に説明することができる」力を問うものだ。
 同じく数学的見方・考え方が問われたものに、5月のキャンプ場の気温を調べた結果を素材にした問題(設問8)がある。この中で、日照時間が「6時間未満」と「6時間以上」とに区分けし作成した気温の度数分布表を用いて「気温差の度数分布多角形」を表し、「日照時間が6時間以上の日は、6時間未満の日より気温差が大きい傾向がある」と主張できる理由を説明することを求めた(設問8(3))。この正答率は、さらに低く11・2%だった。
 「目的に応じてデータを収集して処理し、その傾向を読み取って批判的に考察し判断することを通して、統計的に問題解決することができるようにする」ことを報告書は求めた。
 コロナ禍という非常時にあって、学校現場は感染防止作業も加わりながら、授業時間の確保、基礎学力の定着に苦労している点は否めない。資料やデータを読み取った上で、考えを述べたり、複数のデータなどを咀嚼し説明したりする力を育成する授業をする余裕が早く生まれることを望みたい。
コロナ禍は教育分野に限らず、さまざまな局面で、これまでの弱点をよりあぶりだしていると言われる。いわゆる学力調査での「B問題」に立ち向かう力の育成は、「主体的・対話的で深い学び」を掲げる新学習指導要領がリードするはずだった。コロナ禍が沈静化し、これからの時代を生きるのに必要な力を育成できる環境が早く現出することを期待したい。

■コロナ禍での調査対象の歩み

 今回の全国学力・学習状況調査結果を読み解く参考として、調査対象となった児童・生徒のこれまでを概観しておく。
「小学6年生」は小学4年生の3学期の終わり、同様に「中学3年生」は中学1年生を終えようとしていたころ、学校生活が中断された。政府が要請する全国一斉の「臨時休業」について周知するために令和2年2月28日、文科省が通知を発出し、3月2日から春休みの期間、全国の学校は休校を余儀なくされた。
 令和2年度に年度が改まってもコロナ禍は続く。それぞれ小学5年生、中学2年生に進級したが、4月7日に1都6県には緊急事態宣言が発令され、5月末まで休校が延長される地域があった。多くの学校は6月には登校再開を果たした。
 その後、新型コロナウイルスの感染防止のため、分散登校、短縮授業などで対応したところもある。また、休校による授業時数の不足を補うべく、夏季休業の短縮をはじめ、時数確保に腐心した学校も少なくない。
 そして、令和3年度、小学6年生、中学3年生に進級し、例年とはひと月遅れの調査に挑戦したわけである。

■計画的に学習 小中で違い大きく

 児童(小6)、生徒(中3)への質問用紙では「新型コロナウイルスの感染拡大で多くの学校が臨時休校していた期間中、勉強について不安を感じましたか」と尋ねている。
 児童の回答は「当てはまる」29・7%、「どちらかといえば、当てはまる」25・3%と計55%が不安感を示した。
 生徒の回答は「当てはまる」34・4%、「どちらかといえば、当てはまる」28・1%と、児童の回答を上回る計62・5%が不安を感じていたことになる。
 では、コロナ禍の臨時休校期間中に「計画的に学習を続けることができましたか」についてはどうだったろうか。
 児童の64・7%(「当てはまる」29・9%、「どちらかといえば、当てはまる」34・8%)が計画的に学習を続けることができたと捉えているのに対して、生徒は37・7%(「当てはまる」11・4%、「どちらかといえば、当てはまる」26・3%)と、差が大きかった。
 いずれにしても学習に対して、少なからぬダメージを与えたと言ってよいだろう。
 学校への質問紙調査では「令和2年4月以降」の地域一斉の臨時休校期間について聞いている。小学校で最も多いのは「50日以上、60日未満」で23・6%、次いで「40日以上、50日未満」21・2%、「60日以上、70日未満」18・6%と続いた。中学校もほぼ同様の傾向にあり、「50日以上、60日未満」で22・6%、次いで「40日以上、50日未満」21・8%、「60日以上、70日未満」18・6%。
 「学校の全部を休業していた期間中、家庭学習としてどのようなものを課していましたか」の問いには、小学校の上位3位が▽学校作成のプリントなどを配布95・6%▽教科書に基づく学習内容の指示93・4%▽教科書会社その他民間が作成したプリントなどを配布85・3%である。中学校では▽学校が作成したプリントなどを配布95・3%▽教科書に基づく学習内容の指示92・5%▽生徒の自由研究や自主学習ノートなどの学習を課してきた73・7%が上位に挙がった。
 学校側は学習状況や生活状況を電話、ファックスや、設定した登校日、家庭訪問などによって把握するように努めているが、児童・生徒らの学習への不安感が払しょくできたわけでないことは、前述の回答から明らかであり、計画的な学習の取り組みについては小学生よりも中学生に課題が大きかった。
 学校で補習なども行われたが、学校外にも目を向けておきたい。学習塾の動向についての経産省の分析がある。令和2年度当初の3カ月間は売り上げが落ち込んだものの、10月以降回復。総務省の家計調査を引き合いに出しながら、補習教育への月謝額が上向きに転じたことや、休校要請や分散登校、リモート授業による対面授業の減少などにより、コロナ禍以前とは異なる学校授業を補う役割を受益者は学習塾に求めたことに言及した。「コロナを境に、オンライン(リモート)を活用(併用)した形態が新しいビジネスモデルとして、学習塾を含む学習支援産業全体の景気が活性化されることを期待したいところ」とエールを送った。

■広義の学力育成に工夫を

 かつて問題視された都道府県・政令市間の順位を巡る熱は、コロナ禍の影響もあり、あまり意味はなくなったように映る。
 小学校では秋田、石川、福井など、中学校でも同様の傾向で、上位に常連の県名が連なった。善戦したのは東京だろうか。小学校算数、中学校国語・数学で上位に食い込んだ。
 学校の指導改善もあるだろうが、大都市部の成績向上などの結果については、狭義の学力形成と学習塾の関わりについても冷静に分析してほしい。今後も新型コロナウイルスによる影響が学校現場を揺さぶるような事態が続くのならば、質問紙に通塾率が把握できる項目設定などを検討することも必要ではないか。
 また、コロナ禍への学校対応については、学校への質問紙調査から「行事の見直し」の回答の占める割合が少なくなかった。だが、〝地頭〟を鍛えるには、集団の中に身を置いて、目の前で起きていることを理解し、自ら判断する場面なども必要だろう。
 GIGAスクール構想の実現に向け、オンライン授業の提供など、学校には課題が山積した。一人一台パソコンはオンデマンドによる繰り返し学習や、個別の進捗に応じた基礎学力定着の方途につながる可能性はある。ただ、マスクを着けたまま、社会との交流もままならぬ状況では、中学校国語(設問4―三)での「相手や場に応じて敬語を適切に使う」の正答率40・9%という低さは克服しにくいかもしれない。
狭義の学力の形成の上に、さまざまな制限下で広義の学力を養う機会を確保することは困難な道であり、遠回りのように見える。コロナ禍が続くのであれば、リモートなどで学校外との交流を広げるなど知恵を絞り、学習へのモチベーションを上げることも工夫したい。広義の学力の育成が、弱点といわれ続ける活用力育成のカギを握っている。

(日本教育新聞社編集局)