令和5年度 全国学力・学習状況調査分析
令和5年度 全国学力・学習状況調査分析
4年ぶりの英語 正答率の低さ話題に
考える力は身に付かないのか
日本教育新聞社寄稿
「全国学力・学習状況調査」の詳細については以下をご覧ください。
「全国学力・学習状況調査」(国立教育政策研究所)
本年度の全国学力・学習状況調査は前年度の理科に代わって、4年ぶりに中学校で英語が対象教科となった。同調査は平成19年度に始まり、抽出方式や利用希望方式なども含め今回で16回目(平成23年度は中止)。英語は令和元年度に追加し、今回が2回目となる。
4技能のうち「話す」ことについては、生徒に配布したタブレット端末を活用したオンライン方式を取り入れ実施した。「話す」についての平均正答率は、文部科学省が当日実施校として指定した一部の中学校(500校)が学力調査実施日となった4月18日に英語「聞くこと」「読むこと」「書くこと」「話すこと」全ての調査を実施した生徒のうち、1回目で正常に全ての音声データが登録された生徒(499校、4万1966人)の結果をもとに全国値を推定したとしている。
他の3技能の集計の仕方とは異なるものの、「話す」の平均正答率が12・4%と、残りの3技能の正答率(「聞く」58・9%、「読む」51・7%、「書く」24・1%)に比べ低かった。しかも正答率が4・2%の設問があったことと相まって、英語教育の課題がクローズアップされている。
2つのハードル
調査結果から「話し手の意見を踏まえた上で、自分の考えやその理由を聞き手に話して伝えることに課題」と指摘されたのが「環境問題についての英語のプレゼンテーションを聞き、話し手の意見に対する自分の考えとその理由を話す」設問。4・2%と正答率が極めて低かったことから注目が集まった。
コロナ禍での教育期間が長い3年生が十分なトレーニングをするには制約があったという一部現場からの指摘は、うなずけるところだろう。
これまでの全国学力・学習状況調査でも課題として克服できていない、一定の条件下で複数の情報を受け止め分析し、自分の考えとその理由を表現する能力不足が、ニュージーランドから来た留学生による環境問題のプレゼンテーションに対峙した時、露呈したとみるべきだろう。「自分の考えとその理由を」「英語で表現する」という2つのハードルを乗り越えられず、英語の設問でその弱点が噴出したのである。
「1分間話す内容を考えたあと、30秒で話してください」という問いに、音声を聞いただけで理解して臨機応変に答えられる能力があれば、国語などでの「書く」問題での正答率も自然と上がってくるだろうと思われるが、残念ながら、複数の情報を受け止め、自分なりに判断し、その理由と自己の主張を示す必要があるような、他教科の設問の正答率の低さをみても、我が国の児童・生徒の課題になっていることがわかる。
ただ、英語でも「書く」ことの平均正答率は24・1%にとどまるが、「聞く」ことは58・9%、「読む」ことは51・7%の平均正答率だった。
低迷した英語の調査結果に、他の教科では学力差が縮まってきたのに対して、自治体間格差を憂慮する声がある。
英語の平均正答率の高さを、都道府県順にみると、東京都、神奈川県・愛知県、石川県、福井県・岐阜県が上位に並ぶ。政令指定都市では、さいたま市・川崎市、横浜市が同様に上位に位置する。
さいたま市のように「グローバルスタディ」などの独自の時間割を小学校低学年から取り入れていることなど、平均正答率の高い自治体がどんな独自の取り組みをしているか、分析することも参考になるかもしれない。
また、文科省の「英語教育実施状況調査」ではCEFR A1(英検3級)以上(CEFR A1相当以上を取得している生徒を含む)の中学生の割合(令和4年12月現在)が、福井県とさいたま市が8割を超え、横浜市、東京都、堺市、千葉県、群馬県などが続く。
国の目標はCEFR A1(英検3級)以上(CEFR A1相当以上を取得している生徒を含む)の中学生の割合が50%以上としているが、同調査時点では49・2%まできている。
英語教員の授業での英語使用状況も全体では上がっているが、自治体によりばらつきがあることやその中身の精査が必要なこと、同様に教員の英語力向上気運も高まっているが、やはり自治体によりばらつきがあることなども含め、同実施状況調査のデータなどと平均正答率の関連も、今後、ぜひ分析してほしい。
複数情報の分析踏まえた表現力不足
非連続型テキスト資料を含めて複数の情報を分析して、自分の考え、理由を述べる問題については、PISAショックを経て登場した全国学力・学習状況調査の開始後から今に至るまで積み残された課題である。
例えば、小学校の国語で、米作りについて解説する文章を書く問題。
学校の米作りについて記録していた複数のカードを読んで、原因と結果など情報と情報との関係を聞いた問題では、64・8%が正答し、理解ができている。
一歩進めて、学校の米作りの問題点と解決方法を書くためのグラフ付きの文章を読んで、書くための条件を満たしながら、自分なりの解決方法を書くことを求める設問になると、正答率が26・8%と低くなった。
「グラフから分かる問題点は書いていない」解答割合が高いことから、「図表やグラフなどを用いて、自分の考えが伝わるように書き表し方を工夫することに課題」と分析し、「学習指導に当たっては、伝えたいことを明確にし、分かりやすく伝えるためには、どのような図表やグラフなどを用いるとよいかを児童が考えられるようにすることが大切」と改善を求めた。
中学校・国語では「情報と情報の関係について理解することに課題がある」と指摘された設問がある。素材は、インターネット上にある電化製品開発にかける思いについての文章、この文章をもとに製品開発者にインタビューするために用意したメモ、実際のインタビューでのやり取り(【インタビューの様子】)を文章にしたものなどである。
【インタビューの様子】を読んだ上で、条件を付けて「インタビューのまとめとしてどのようなことを述べるのか、自分の考えを書く」設問の正答率は82・7%と高いのに、電化製品開発にかける思いについての文章を読んで、実際に製品開発者に「インタビューするために用意したメモ」の一つについて、なぜそのことが聞きたいのかを、4つの選択肢から解答するものが65・3%と低くなった。
指導改善のポイントとして「『原因と結果』、『意見と根拠』、『具体と抽象』などの基本的な情報と情報との関係について理解し、実際に話したり聞いたり書いたり読んだりする場面で活用できるように指導することが大切」を示す。
算数・数学でも同様だ。
小学校・算数の「図形の構成の仕方を観察して図形について判断すること」を出題したもののうち、「高さが等しい三角形について、底辺と面積の関係を基に面積の大小を判断し、その理由を言葉や数を用いて記述できるかどうかをみる」設問の正答率が21・1%と低い。
具体的には、同じテープの上に、形の違う2つの三角形が描かれ、それぞれの辺の長さが明記されている。どちらの面積が大きいか、小さいか、同じか、比較できないかを4つの選択肢から一つを選んで、そのわけを言葉や数を使い説明する設問である。
三角形の面積の出し方は「底辺×高さ÷2」と分かっているだろう。同じ長さの底辺を持ち、形の異なる三角形で、「高さ」に関する数字が明記されていないことから誤答につながったのだが、数字は書いていないがテープの幅(高さ)は同じだから、同じ底辺の長さであれば、形は違っても底辺×高さ÷2で等しい面積であることが類推できる。
「指導に当たっては、例えば、平行な直線にはさまれた底辺が等しい、二つの平行四辺形や、二つの三角形の面積を比べる活動が考えられる」という。
中学校・数学では、イチョウの葉の大部分が黄色に変わる最初の日を「黄葉日」とし、各年の黄葉日から黄葉日に至った「経過日数」を15年ごとにまとめた分布を「箱ひげ図」にし、その傾向を主張するやり取りから、そう主張することができる理由を求めた設問がある。
正答率は33・9%。「複数の集団のデータの分布の傾向を比較して捉え、判断の理由を数学的な表現を用いて説明することができるかどうかをみる」ものとして設定している。
一昔前で言えば、いわゆる活用を扱った「B問題」であろう。
全国学力・学習状況調査の結果の公表を受け、授業や指導の方法などを改善するため、自治体段階でも必要な資料を作成し学校現場に提供するなど、学校現場での努力も含めてさまざまな手立てが講じられている。
にもかかわらず、課題が克服できないというのはなぜなのか。学校の授業だけでは解決に向かえない性質のものなのか。指導の方向も含めて、根底から見直す必要はないだろうか。
義務教育の在り方に疑問呈した知事発言
このまま義務教育を終わらせていいものかと、全国学力・学習状況調査の小学校・算数のある設問の正答率に、注文を付けた知事がいる。一部メディアで取り上げられたので、目にした方もいるかもしれない。
この発言は「知事会見」として目にすることができるので、興味のある方はアクセスしてほしい。
(https://www.pref.shimane.lg.jp/admin/seisaku/koho/teireikaiken/5/0822QA7.html)
「伴って変わる二つの数量の関係について考察すること」を狙いとした問題の中の一つの設問が、その話題の中心である。椅子4脚の重さが7kgで、この椅子48脚の重さは何kgになるか、求め方を式や言葉を使って説明しようというものだ。正答率は55・8%。
設問自体は「伴って変わる二つの数量が比例の関係にあることを用いて、知りたい数量の大きさの求め方と答えを式や言葉を用いて記述できるかどうかをみる」というものだ。
報告書では正答に至る道について、2つの道が示されている。「48脚が4脚の12倍であることなどを求め、椅子の数が12倍になると重さも12倍になることなどを用いて、48脚のときの重さを求めている」と考えるか、あるいは「1脚当たりの重さを求め、1脚当たりの重さを用いて、48脚のときの重さを求めている」と考え、それぞれの考え方に該当するような式や言葉が使われていればいいことになる。
問題にした知事は、後者の考え方をとり、「読み書きそろばんの、そろばんの世界」と表した。そして、日常生活の買い物で5個1000円の商品があって、10個なら2000円だが、同じものが10個2000円を超える商品となって売られていた場合に1個当たりの金額の計算ができなければ損をすることになる。せめてそのくらいの計算ができないと暮らせない。この問題は、この程度の数字の扱いのレベルではないかという。
同県の児童のこの設問の正答率は5割を切っていた。学校現場もできるだけのことはしている。にもかかわらず、身に付いていないのは、教育の仕組みそのものの問題ではないかと疑問を呈したのだ。
設問の仕方は一ひねりしているが、昔で言えば基礎的なものに当たる「A問題」だろう。これが正解できる児童が、5割程度でいいのかという異議申し立てだった。
我が国の教育界は「主体的・対話的で深い学び」を追い求めて久しいが、基礎・基本的な知識・技能の習得が前提、あるいは両立していく学びの過程であるのは教育関係者の共通理解するところだろう。
だが、その基礎・基本的な設問には、よくできているものがある一方、ばらつきもある現状にも留意しておくべきだという警句かもしれない。
例えば、漢字の書き取り問題である。
小学校・国語では、学校の米作りの問題点と解決方法を取り扱った設問の一つが正答率26・8%とダントツに低かったのであまり目立たないかもしれないが、同じ大問中で「雑草取りを続けたのですが、いがいに雑草が生えてきて、とてもこまりました」の「いがい」(正解は「意外」)を漢字にする設問の正答率が53・0%と、〝26・8%問題〟がなければ、小学校・国語のすべての設問中で最低の正答率だった。
中学校・国語の設問でも似たような傾向にある。全設問中、最も低い正答率だったのは、「文脈に即して漢字を正しく書くことができるかどうかをみる」もので、やはり漢字に直すものだった。「おし量って考える」の「おし」(正解は「推(し)」)の漢字を求める設問で、正しく解答できたのは44・5%にとどまった。
先の知事の言をまねれば、こちらは「読み書きの世界」である。これは今回だけの正答率の低さではない。絶えず基礎・基本の習得にも目を向けたい。
後退した?! 勉強時間
全国学力・学習状況調査では教科とともに、児童(以下、小学生)・生徒(以下、中学生)及び小学校、中学校を対象にした「質問紙調査」が実施されている。
小・中学生に関しては例えば、基本的生活習慣や部活動、ICTを活用した学習状況など12項目で小学生は60余り、中学生は70を超える質問が用意され、学校に関しては生徒指導、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善に関する取組状況、学習評価、全国学力・学習状況調査の結果の活用など15項目で、小学校は80を超え、中学校は90を超える質問がそれぞれ設定されている。
質問紙調査の報告書では、「前回」と「最大9回前」との回答比率の増減を提示している。
回答割合が増えていれば改善、減っていれば心配すべき事項ということになるのだろう。
学校を対象にした質問では、ほとんどがこれまでと変わらずか、5ポイント以上の増加、あるいは10ポイント以上の増加である。実態を正確に映しているかどうかは別にして、その改善ぶり、進捗ぶりは驚くほどだ。
これまでの質問紙調査との比較では、唯一、5ポイント以上、肯定する割合が減じたのは「最大9回前」調査の比較において、中学校の「保護者や地域の人が学校の美化、登下校の見守り、学習・部活動支援、放課後支援、学校行事の運営等の活動に参加していますか」という質問に対してである。
小・中学生で10ポイント以上減じているものをみる。「最大9回前」調査との比較で、小・中学生共に減ったのが、「新聞」を読んでいる割合と、小学生では「昼休みや放課後、学校が休みの日に、本(教科書や参考書、漫画や雑誌は除く)を読んだり、借りたりするために、学校図書館・学校図書室や地域の図書館(それぞれ電子図書館を含む)にどれくらい行きますか」に対する回答割合。新聞業界にとっては頭の痛い推移であり、図書館利用の減少は〝本離れ〟をイメージできる。
図書館利用に関しては、「前回」調査との比較でも、小学生が5ポイント以上減じた。
また、「最大9回前」調査との比較で、5ポイント以上減ったのは、学校の部活動で、普段(月曜日から金曜日)活動を行った日の平均時間。「働き方改革」に関連して部活動の見直しが進行しているので、この結果は当然としても、小・中学生共に「将来の夢や目標」が失われ、小学生で「今住んでいる地域の行事に参加」が減っているのは、心配事ではある。
高校改革を推進する際、よく語られたのが高校生の勉強時間の減少である。小学生、中学生はどうだろうか。
小学生では「最大9回前」調査との比較で、学校の授業時間以外に、普段(月曜日から金曜日)の1日当たりの勉強時間(学習塾で勉強している時間や家庭教師の先生に教わっている時間、インターネットを活用して学ぶ時間も含む)が5ポイント以上減っている。
中学生は、「前回」比較で5ポイント以上減ったのが、土曜日や日曜日など学校が休みの日に、1日当たりの勉強時間(学習塾で勉強している時間や家庭教師の先生に教わっている時間、インターネットを活用して学ぶ時間も含む)。土・日の部活動が抑制されている中で、これはこれで心配事である。
学習した内容について、分かった点や、よく分からなかった点を見直し、次の学習につなげることができると回答する中学生も減っている。
中学生の場合、「最大9回前」調査から、家で自分で計画を立ててする勉強(学校の授業の予習や復習を含む)が5ポイント以上減っていた。
家庭の経済格差による…、本や新聞を読む子は…などが学力の違いにつながることは連想できる。教科指導の改善も必須だろう。そのためには、教師にゆとりも必要だ。
ただ、小学生は6年、中学生はわずか3年で学校から巣立っていく。その先の生涯は長い。義務教育段階で、生涯を支える学び方、学びへの構えを培っているか。改めて問いたい。
(日本教育新聞社編集局)