全国学力学習状況調査からわかること

 教室の子どもたちは「活用」する力や、「言語活動」の充実による目に見えたレベルアップは感じられない―。日本教育新聞社が全国の学習塾など民間教育事業者などを対象にこの夏実施した全国調査の結果、こんな状況が浮かび上がった。日本教育新聞8月19日付で掲載。ぜひご一読願いたい。また、グローバル人材の育成には肯定的な半面、否定的な要因にはまず国語力を付けることが先だという切実な思いも感じられる結果になった。
 2003年に日本を襲った「PISAショック」。2000年を本調査に3年サイクルで始まったOECD生徒の学習到達度調査である。2000年調査ではリテラシーの一つ読解力は参加国・地域中8位。トップとなったフィンランドとは得点の上で有意差があったものの、8位とはいえ「2位グループ」を形成した国の一つに含まれ、これらの国の中では有意差はなかった。しかし、2003年調査になると、読解力で14位、2000年調査でトップだった数学的リテラシーは6位に下がった。
 こうした学力の凋落傾向を受け、PISA型読解力の育成を目指し、言語活動の充実を含む学習指導要領の改訂があり、授業改善が叫ばれ、全国学力学習状況調査の実施、読書活動の充実が求められるなど、歯止め策がスタートしているのは、周知の通りである。
 特に、2007(平成19)年度に始まった全国学力学習状況調査の、いわゆる「B問題」は「活用」問題として、情報の取り出しや解釈、熟考・評価などのリテラシーを測るPISA型読解力に対応したものだ。
 改訂された学習指導要領では、知識基盤社会に対応するために、自ら考えを深め、他者とコミュニケーションを取るためには言語運用能力が必要と位置付け、国語力の向上を全ての教科の基本とした。記録、要約、説明、論述などができる能力を、さまざまな場面で育成していくことが目指されている。
 政権交代後、今年4月に実施された全国学力学習状況調査では、4年ぶりに全校対象に、小6、中3がテストに臨んでいる。

■■自分の考え、根拠を書く力は育ったか

 平成25年度に実施した学力調査の内容は、これまで通り、小6対象のものが、4月という実施時期から、第5学年の修了段階で習得すべき指導内容が出題範囲である。
 このうち「活用」の問題は、例えば、国語の場合、小学校学習指導要領解説国語編第2章第1節に示す言語活動例などを遂行する中で活用できるかどうかをみるとしている。
 同様に、算数の「活用」では▽物事を数・量・図形などに着目し観察し的確に捉えること▽与えられた情報を分類整理したり必要なものを適切に選択したりすること▽筋道を立てて考えたり振り返って考えたりすること▽事象を数学的に解釈したり自分の考えを数学的に表現したりすること―などを測る。
 具体的には、こんな問題が出題されている。
 小6国語の「活用」問題。「打ち上げ花火の伝統」を題材に、グループで調べ、調べたものを基に編集会議をし、目的や意図に応じてリーフレットを編集するという出題内容。リーフレットを作成するために、みんなで調べた内容を▽打ち上げ花火の歴史▽その種類▽花火師の声▽まとめ▽あとがき―の構成で「下書き」した。この資料を基にして「編集会議」での話し合いから出た「意見」を生かし、「ずかんの一部」を使って、「書き直した部分」はどういう内容にするのがふさわしいか、書き直すことが課された。
 また、設問の一つでは、「まとめ」の部分に、盛り込む要素を示し、自分の考えたことを具体的に、80字以上100字以内になどと、幾つかの条件を設けて書くことを求める。「調べて分かった事実に対する自分の考えを、理由や根拠を明確にして書くこと」という課題が、平成21年度の同調査国語B問題で出題された際に、正答率が17・8%と低率であったことから、その改善状況が試されているものだ。
 中3数学の「活用」問題。水温の変化と気温の変化を取り上げ、日常の事象の数学化と他事象との関係を問うものだ。水を熱した時間から水温をグラフ化したものを示し、「熱し始めてから10分間で何℃上がりましたか」などと聞き、与えられた表から必要な情報を適切に選択し、処理することができるかどうかを試した。

■■過去の問題から明確になった課題

 国立教育政策研究所では平成19年度からの過去4年間の調査結果から正答率をよりどころに、一定の成果と課題になっている部分を整理したものをまとめているので、参考にしたい。  正答率が低く、課題となっている分野については、課題を整理した上で、これからの学習指導のポイント、課題の解決に向けた「授業アイデア例」などを提示している。
 小6国語の「書くこと」の課題の一つに「調べて分かった事実に対する自分の考えを、理由や根拠を明確にして書くこと」がある。前述の「打ち上げ花火の伝統」の「まとめ」の文章を書くような場合だ。
 学習指導のポイントに、図表やグラフなどの資料の読み方の充実、文章全体の構成の指導の充実を挙げ、授業のアイデア例では、「気持ちのよいあいさつ」と課題を設定し、アンケートによって調べた結果と、分かったことや考えたことを関連付けながら書くなどの方法が示されている。  小6算数の「量と測定」では、「求積に必要な情報(図形の長さ及び図形の性質)を取り出して面積を求めること」が課題の一つとなった。
 ここでは平成20年度算数A問題で、平行四辺形の求積の正答率が85・3%と高率だったことを挙げながら、その一方で、平成19年度算数B問題で地図上から平行四辺形と正方形を取り出し、面積の比較をする問題の正答率が18・2%と低率だったことを解説した。この時に、平行四辺形の公園の面積について、「高さ」が図形の外に示されていたため、「(底辺)×(斜辺)」で求めた児童が34・4%いたことを問題視した。
 中3数学では「数と式」で、「方程式における移項の意味を理解すること」「方程式をつくって問題を解決するために数量の関係を捉えて2通りに表せる数量に着目すること」が課題になった。
 過去の調査から一元一次方程式を解く技能は定着しているものの、方程式を解く際に用いる「移項の意味」がよく理解できない生徒がいること、計算の根拠となる性質や意味の理解に課題があるとしている。
 中3数学では、「証明の意義」など前述のA問題以外にも、正答率の低いものがあった。
 また、「活用」の問題では、「記述式の問題」での課題が指摘され、「予想した事柄を数学的な表現を用いて説明すること(事実・事柄の説明)」「問題解決の方法を数学的な表現を用いて説明すること(方法の説明)」「事柄が成り立つ理由を説明すること(理由の説明)」が挙げられ、これらはまさに数学における言語活動の充実が求められていることと関連する。
 これらの蓄積を上手に生かし、指導の改善が求められることになるはずだが、冒頭で紹介した民間教育事業者調査結果のように、今なおその力の育成は大きな課題といっていい。教員構成の変化による指導の劣化を問題点として指摘する関係者もおり、指導方法そのものの検証も必要になるのではないだろうか。
 本年度は全国学力学習状況調査の追加調査として、保護者を対象とする調査を実施している。全国で小学校430校、中学校414校を無作為に抽出して、約5万人に、子どもへの接し方▽子どもの教育に対する考え方▽子どもの教育費▽保護者の意識・行動などを聞いて、学力との関係などを分析する。
 学力については家庭との相関もあるだろうが、学校でもまだできることはないか。今夏、フィンランドの言語教育の第一人者が来日し、「学び方を学ぶ」重要性を説いていた。フィンランドでシェアを占める国語の教科書は、「物語」を取り上げるにしても、絵を見ながら、どういう問題が起こってどうやって解決するのかを物語に書くことや、物語の「型(かた)」(例えば、書き出しがあり、問題が起き、問題解決・第1の挑戦、第2の挑戦・・・、ついに解決、結び)を理解させてから物語を書かせるように、発想の仕方や書き方そのものが習得できるような学習内容、学習順序になっている。一時、「フィンランド詣で」ともてはやされたが、本当に学ぶべきことを学べただろうか。
 本年度の全国学力学習状況調査の結果は8月下旬に公表予定。
 2学期以降の授業に何が生かせるか、子どもの課題を解決するための指導手順・方法として最適なものは何か、より良い授業を目指すための検証材料にしたい。