自学自習を促し定着を図る漢字学習

清瀬市立清瀬第三小学校では、今年度より全学年で「漢字のとびら」を導入。漢字指導を学校で統一していく試みをされています。そこに至った経緯、学校としての考え方について伺いました。

日本教育新聞「企画特集」と併せてご覧ください。
日本教育新聞「企画特集」2022年1月24日PDF

語彙力の育成は学力の土台

学校長 水野 恵美子(写真:右)研究主任 三浦 沙貴 教諭(写真:左)

学校長 水野 恵美子(写真:右)
研究主任 三浦 沙貴 教諭(写真:左)

記者:貴校では今年度国語指導の一環として、漢字指導の見直しをされたと伺いました。その経緯と『漢字のとびら』導入の関連についてお聞かせください。

水野校長: 本校は、教育目標に『よく考え、やりぬく子ども』、『やさしく思いやりのある子ども』、『明るく元気な子ども』の3つを掲げ、子ども同士がお互いに教え合い問題解決能力を上げていく取り組みを進めています。昨年から国語を校内研究科目としておりますが、まず課題として感じたことは、子どもの語彙力です。語彙力が充分でないと「書く力」はなかなか付きません。研究課題の中に「書く力を育てる」ことを挙げていますが、同時に語彙数を増やすことが必要だと感じました。どの教員が教えても差が出ず、効率よく、子どもたちには分かりやすく楽しい。「言葉」も「漢字」も同時に学習ができたら理想的だなと思います。そのためには日々コンスタントに家庭学習をすること、教科書に出てきた漢字と併せ、他の熟語やその漢字の使い方を習得していくことが大事だと考えました。調べた漢字や熟語については、子どもの中で話し合わせたり発表させたりすることで、言葉に対し興味関心が高まるのではないかと期待しています。
昨年の休校期間、学校から家庭学習の課題を学校から出しましたが、そのひとつが「漢字学習」でした。学校が再開し(休校期間中の)課題の出し方について教員内で話をしましたが、漢字学習の進め方、教え方は先生によって意外と違いがあることが分かったのです。子どもたちが、学年問わず自学自習の中で漢字を学べるようにするには、私たち教員はどんな教え方をしたらいいのだろうと考えました。そこから、教員が漢字学習について共通理解をし、教え方を共有していくのがよいのではないかという話し合いが始まりました。
 そんな折に、日本教育新聞の『漢字のとびら』活用校の記事が目に留まりまして。その新聞を教員に渡したところ、研究主任の三浦が早速審査用見本を取り寄せ先生たちの中で検討することになりました。
 『漢字のとびら』には、教え方のポイント(間違えやすい点)が書かれています。どの教員が教えても、教えるポイントがブレないがいいという意見が出ました。最初から「学校全体で揃えましょう」と進めていたわけではなく、先生方で検討した結果「全学年で使ってやってみてはどうだろう」となり使い始めました。
今までとは違う学習方法を取りましたので、課題や改善点、成果について先生方からいろいろ意見も出ています。その都度話し合いながら進めているところです。

三小メソッドで家庭学習と連携 ~漢字のとびら導入の経緯~

記者:新聞記事がきっかけになっているというのはありがたいですね。
では研究主任の三浦先生から、具体的な漢字の学習方法、教材導入の経緯についてお話を聞かせてください。

三浦先生: 今年度学校全体で行ったことの中に、漢字学習法の見直しがあります。
先ほど校長のお話であったとおり、漢字の教え方、学習の進め方は先生によって案外違うことが分かりました。そこでまず、「子どもたちが自力で進められる漢字の学習法を考え、先生がそれを実行していきましょう」と決めました。勉強(学習)の仕方が身に付けば、学年が変わっても自学自習ができるようになるのではないか、と。今年度はそのやり方を試しています。
 『漢字のとびら』は、シンプルですっきりしていて、無駄な情報がないので子どもたちに合っていると思いました。学習する上で大切なことだけが、分かりやすく示されています。たくさん情報が載っているよりも、シンプルなほうがいい。先生方には、シンプルですっきりしている点に注目が集まりました。これは話し合ってみて分かったことですが、新出漢字を子どもに指導する際、どこに重点を置いて指導すればよいのかが先生によって意外と違っていました。

どの担任も教えやすい

三浦先生: 勿論どの先生もしっかり指導したいと思っていますが、初めてその学年をもつこともあるのでポイントを把握しきれていない場合があります。『漢字のとびら』は、間違いやすい部分が始めに記されています。教師も非常に教えやすいというメリットがこの教材にはあります。『漢字のとびら』を元に漢字学習を進めながら、足りないと思う部分は日々の指導の中で先生が補うというように考えを変えました。たし算の考え方です。宿題で使う漢字ノートも、「三小メソッド」を作り「ノートの書き方」を統一しました。『漢字のとびら』 に載っている熟語数は、他の教材よりも圧倒的に少ないですね。「三小メソッド④」にあるように、もっと知りたい場合は自分たちで国語辞典を引くことにしています。国語辞典を使いこなすことは校内研究の目標の一つでもありましたし、保護者にも「辞書引きをさせてください」とお願いしていましたから、その点も本校にはマッチしていましたね。 国語辞典は3年生から、漢字辞典は4年生から使い始めます。私は今年3年生の担任をしていますが、3年生でも言葉に興味を持って、漢字辞典を買い求める保護者が増えました。学校ではまだ引き方を教えていませんが、新しい漢字と出会うとその言葉(漢字)を調べてくるようになりました。これは一つ、成果です。  3年生では、国語の授業の最初10分くらいを漢字学習の時間に当てて日々行っています。隣の子同士でノートを見せ合い、お互いに間違った漢字を書いていないかを確認しながら進める方法です。『漢字のとびら』には、漢字のどこに注目して見ればよいかが記されていますね。3年生でも教え合いながら漢字学習ができる点も、メリットのひとつだと思っています。宿題でも間違えて練習することが減ったのは成果ですね。 教科書の進み度合いに捕らわれず、前倒しで漢字学習を進めたいという思いもありました。『漢字のとびら』は上巻下巻に分かれていますが、反復練習の期間を長く取るため、4月にまとめて購入しています。新出漢字のページをどんどん進め、最後まで終わったら、2巡目は「名人コーナー」のページを最初からやります。3巡目は「力だめし(まとめのテスト)」をやるという形をとっています。繰り返してやることで、定着を図りたいと考えました。

記者:子どもたちへの効果はいかがでしょうか。

三浦先生: 以前よりも、子どもたちが書く文章の中で多くの漢字を使うようになったと思います。 1学期の時点で、当該学年の漢字はひと通り学習し終えます。すると国語をはじめ、授業中の板書でも、教師が使える漢字の数が増えます。子どもたちが目にする漢字の数が圧倒的に増えるわけですね。「書く」だけでなく「読む(読める)」ことの効果も大きいと思います。漢字は使っていかないと覚えませんし、触れる数が多ければ語彙力が増すことにつながります。「日常的に使える漢字が増える」という効果は感じています。漢字検定への関心、意欲も高まっていると思います。年度末にならなくてもその学年相当の漢字検定が受けられるので。受かると子どもたちの自信につながります。 学習を進めるスピードは、教師が考えて調整する必要があるなと思っています。早すぎると子どもが息切れを起こしますし、じっくりと辞書を引いて調べる時間も大切です。間違いやすいところを意識してしっかりと書くことは「漢字のとびら」の特徴でもあります。間違っているか、間違っていないのかを判断する『書き名人』『送りがな名人』は子どもたちにとって面白いみたいですね。学習の進度は改善しながら進めたいと思っています。

「表現する力」へつなぐ

記者:漢字を覚えた先にある「表現する力」の育成についてはいかがでしょうか。

三浦先生: 「表現すること」は学校として意識をしています。どの学年にも、日々の宿題に必ず「文作り」を入れています。この漢字を文章の中でどう使うかを考えながら、「文作り」の学習をさせたいと思っています。同時に文章の中で使える熟語も増えていったらいいなと。「歩く」「歩道」のように、動詞としては使えるけれども、熟語として使うとなるとハードルが上がります。「使える熟語」の壁は感じていますね。書いてきた文章は子ども同士で見せ合ったり、面白い文章があると教室に飾ったりして共有しています。子どもたちもよく見ていますね。
以前は文章を書くとき、全部平仮名で書いていた子どもがおりましたが、現在は殆どいなくなりました。漢字を使った方が(文章は)読みやすくなることに、子どもたち自身が気づき始めています。「文章を書く」=「漢字を使う」ことが当たり前になってきていると感じますし、高学年の先生からは、文を書くことに対するハードルが明らかに下がったと聞いています。この効果は大きいと思います。
それでも、子どもたちを見ていると表現したくても正しく表現できない、相手に伝わるような表現ができないことへのもどかしさを感じる時があります。どの教科を研究課題としていても、最終的には子どもたちの「表現力」「語彙力」が関係してくるのだと思いますね。

記者:今後、育てていきたい力、目標があればお聞かせいただけますか。

水野校長: 私は、言葉に興味や関心をもつ子どもたちになってほしいと思います。先生から教えられて義務的に覚えるのではなく、自分から「この漢字知っている、この漢字読める」「文章の中でこの熟語使った(書いた)ことがある」「あぁ、こんな言葉もあるよね」と気づいて広げていく。子どもたちが楽しみながら言葉の学習ができる、そういう授業を目指したいですし、そういう子どもたちに育ってほしいですね。そして習った言葉や熟語が書ける、書くことが苦にならない日常ができたらと思います。
書き慣れることはとても大事です。1文から2文へ、少し長い文が書けるようになった、お友達や先生に読んでもらえた、もっと読んでもらいたい…というように、「書くこと」の楽しさを感じさせる、体験をさせることですね。そのためにも、日々書く、その積み重ねです。「書くこと」は国語だけでなくどの教科にも通じることですので、大事な取り組みをしていると思います。

三浦先生: 自分の思いを素直に表現することができる子どもにしたいですし、そうなってもらいたいと日頃思っています。「話すこと」もそうですし、「書くこと」も。何においてもです。
 そのためには、どの教科でもどの場面でも、言葉を知らないことには始まらないと思います。漢字の練習も、ただ書いて練習するのではなく、漢字を通して言葉を知ってもらいたいですね。
 昨今は授業で取り組むべきことが本当に多く、「国語」の中で「漢字」を学習する時間は減らしていかなくてはならないような状況だと思います。そのような中で、漢字学習の時間をいかに子どもたちにとって有意義な時間に変えていくかが、私たち教員には求められています。そのために、もう少し漢字の授業や学習法について私たち教員同士は話し合い、共有してもいいのではないかなと思います。私自身、今回この研究をするまでは初任の時に覚えた教え方、学習の仕方を疑うことなく継続していました。今回学校として漢字学習を統一しようという試みは、非常に面白い研究でした。『漢字のとびら』に限らず、どうやって漢字を指導していくのかということは、他へも大きく影響すると思います。その部分も踏まえて、私たちは研究を続けていきたいなと思います。

記者:本日はありがとうございました。

以上

School Data

清瀬市立清瀬第三小学校

清瀬市竹丘1丁目15-4
児童数:268名
学校長:水野恵美子先生

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