新たな言葉と出会い学び合える漢字学習へ

1/23号日本教育新聞企画特集記事では、山梨県・大月市立猿橋小学校を取材させていただきました。
大月市立猿橋小学校では、『漢字のとびら(光村準拠版)』をご採択いただき、今年度で2年目。
小学3年生~5年生で使用中です。
小林正樹校長先生、5年生ご担当の笹本恭平教諭にお話を伺いました。

大月市立猿橋小学校

日本教育新聞「企画特集」と併せてご覧ください。
日本教育新聞「企画特集」2023年1月16日PDF

採択した経緯と使用状況

記者:「漢字のとびら」をご採択いただいた経緯をお聞かせ下さい。

笹本恭平教諭:私は昨年度から「漢字のとびら」を使用しております。採択時の学年主任の先生から「教材選定の経験を積む」ために漢字ドリルの採択を私に一任していただきました。その際に漢字のとびらを拝見しました。
他の漢字ドリルと比べたところ、新出漢字のページにある「使い方」に出てくる熟語が、語彙力を養うために教科書以外の熟語が記載されていました。子どもたちに、いろいろな言葉を学ばせるために役立つと思いました。また、子どもたちにとって間違えやすい書き順に注意を向けさせる工夫があり、指導する際にも参考にもなると考えました。他にも「送りがな名人」や「書き名人」の問題は、子どもたちがうろ覚えになりがちな送り仮名や、漢字の形をきちんと認識し直すことができると思い、導入しました。
「力だめし」の問題は、まとめ問題となっています。他社のまとめ問題では「読みと書きが表裏一体」、同じ漢字の「読み」と同じ漢字の「書き」という構成になっています。一方で「漢字のとびら」は、「読み」と「書き」の漢字が異なる構成になっています。さまざまな漢字の使い方を、実践形式で子どもたちが学習できる。それが導入を決めたきっかけです。

記者:現在の『漢字のとびら』の使用場面と使用方法を教えて下さい。

笹本先生:新出漢字のページは授業中に扱います。最初に新出漢字の音読み・訓読みを声に出させます。子どもたちは音読しないと、聞いてるだけでは覚えにくいので、新出漢字の読みを声に出させて言うところからスタートします。次に書き間違え・書き順の間違えをしやすいポイントを学習させます。そして書き順の確認を空書きします。最後に3回、字のバランスに気を付けながら漢字のとびらに書き込みます。早く書き終わった子どもたちは、新出漢字を辞書引きして、「漢字のとびら」の「使い方」のコーナーに載っていない熟語を欄外に書きます。
例えば、今日は「旧」という漢字を新出漢字で勉強しました。「使い方」には「復旧」という熟語がありますが「旧道」「旧正月」という言葉を欄外に書いている子がいました。
また新出漢字で「救」の漢字を学習しました。子どもたちは「救」を使った熟語で「救助」「救護」という言葉を学習しました。別の子どもが「救助って何?」と質問しました。すると、子どもたち同士で「じゃあ、意味を調べてみよう」と言いながら国語辞典で辞書引きしていました。子どもたちは少しずつですが、語彙力を付けることができています。

記者:確認テストも使用していますか?

笹本先生:確認テストは、「書き」のテストを最大3回繰り返し実施します。「漢字のとびら」の確認テストは、新出漢字の「使い方」とは異なる熟語が出題されることもあります。子どもたちは1回目のテストでは間違える、または知らない熟語の漢字に苦戦しますが、同じテストをもう1度実施することで、書ける子どもが増えます。2回目で10点満点を取れる子どももいますが、再確認の意味で3回目も実施します。確認テストは5分ほどで終わりますので、国語の授業時にほぼ毎回行います。

「書き」の確認テストを繰りかえし実施

「書き」の確認テストを繰りかえし実施

記者:宿題でも「漢字のとびら」を使用していますか?

笹本先生:授業で新出漢字を学習した際にその日の宿題として、ノートに練習をさせて提出させます。
また、「書き順名人」「送りがな名人」「書き名人」の3つのコーナーを1日ずつ分けて宿題にしていますが、こちらは本体に直接書き込ませています。

記者:「漢字のとびら」を使用して、子どもたちの漢字学習に変化はありましたか?

笹本先生:特に「書き名人」のコーナーを学習することにより、漢字の「とめ」「はね」「はらい」や「横ぼうの本数」など細かいところまで、子どもたちの意識が行き届くようになってきました。漢字学習に限らず、子どもたちのノートや他の科目の中で書いた字を見ていても、正しく使えるようになったと思います。
学期ごとの漢字のまとめテストにおいて、1学期は出題される漢字や熟語を先に提示し、子どもたちは出題された漢字を書き取るという形式にしていました。しかし2学期以降は、その形式を変えたいと思いました。教員が子どもたちに出題範囲を伝え、熟語はどの言葉が出るかはわからないようにしました。子どもたちにとって難易度は上がりましたが、正答率で言うと8割後半ぐらいです。日々の学習や、辞書引きの効果が成果につながったと私は思います。

記者:これまでに学習した漢字を使った熟語ならば、教科書以外の言葉も出題されているのですね。

笹本先生:そうですね。子どもたちには教科書に出てくる言葉以外も正しく使え、文章の一部として使いこなせるようになってほしいと思います。今はまだまだではありますが、子どもたちも少しずつ使える言葉を増やしています。

辞書引きによる語彙力と自主性の向上

記者:授業を拝見しまして、子どもたちが「自主的に進めていく姿」が見られました。先ほど笹本先生が仰たように、辞書を子どもたちが積極的に引いている場面が多く見られました。

笹本先生:辞書は頻繁に使わせるようにしています。子どもたちは辞書を引くことでいろいろな言葉に興味を持ちます。教員が子どもたちに「その言葉はどんな意味かな?」のように聞くと、子どもたちが自主的に調べて教員や他の子どもに発表します。子どもの疑問や興味を逃さずに取り上げることは意識しています。

記者:子どもたちが辞書を使い込んでいると私たちには見えました。引き方もスムーズですし、子どもたちが自分のツールとして使いこなしている様子が見受けられました。
また、子どもたちの辞書に「付箋」がいくつもついていましたが、「付箋」はどのように使っていますか?

調べた言葉は辞書に付箋を貼る

調べた言葉は辞書に付箋を貼る

笹本先生:子どもたちが自分で調べた言葉に貼るように指示しています。付箋に貼っていくと自分で調べたことが見えるので、子どもたちも調べた言葉の数を増やしたいという気持ちもあると思います。辞書に付箋がたくさんあると、子どもたちも「勉強した成果」を感じています。

記者:もう1つ辞書についてお聞きします。子どもたちが「漢字辞典」ではなく「国語辞典」を使っていましたが、国語辞典を使用するメリットはどのような点でしょうか?

笹本先生:漢字辞典ですと、その漢字の単語のみが並んでいるので、同音異義語や同訓異義語はなかなか出てこないと思います。国語辞典は「あいうえお順」で言葉が並んでいるので、調べた言葉を知るきっかけになると同時に、他の言葉への関心も持ち語彙力も上がると思います。読みが同じでも、今回習った新出漢字ではないと理解することもあります。

記者:辞書の使い分けが語彙力の上げ方に一役買っているのですね。

間違えることを恐れさせない

記者:笹本先生の授業を拝見して思ったことがありまして、子どもたちがもし間違えたとしても、「勉強の機会として前向きに捉えさせる」様子が見られました。

笹本先生:敢えて間違えさせたい問題、または子どもが引っかかるだろうという問題は私が事前に予想しております。
本日の国語の授業でも、最初は特に何もヒントを与えずに出題しました。間違えたり、わからなかった子どもは、友達から意見を聞いて、一緒に正解を共有することで成功体験を味わいます。「覚える」ということ対して、「体験」「印象」という裏付けは大事であると私は考えています。そのため、どんどん間違えてOKと子どもたちには伝えています。

記者:そうですね。理由・体験など何か根拠があると覚えやすいとよくいわれますが、まさに笹本先生は子どもたちに実践していらっしゃいますね。

笹本先生:「この問題は間違えたから、次は間違えないようにしよう」と子どもたちが思うことは大事で、ただ単にバツがつくより子どもたちにとって成長につながると私は思っております。

自主性と表現力の向上

記者:小林校長先生には、貴校の教育方針についてお伺いします。特に大事にしている点はどのようなことでしょうか?

小林正樹校長先生:「子どもたちの自主性を伸ばす」ことは猿橋小学校では大切にしております。
笹本先生の指導で「辞書を引いてわからない言葉を自分で調べて身に付ける」ということは子どもたちの自主性を伸ばすことの一因となっております。

記者:GIGAスクール構想の影響で、子どもたちが全員タブレット端末を持っていますが、タブレット学習と辞書引きや紙に書くことについて、それぞれどのようにお考えですか?

小林校長先生:全国の例に漏れず、大月市もGIGAスクール構想により、子ども1人に1端末が配備されました。先生方はパソコンの技術に長けておりますし、子どもたちも授業で活発に使っていますので、ひとりひとりのパソコンのスキルはかなり高いです。
ただ、パソコンで全てを行えるというわけではありません。当然紙媒体の、アナログ的要素も必要になります。国語の漢字学習はまさしくその「アナログで書く」部分が必要だと思います。猿橋小の教員は、タブレット学習と紙に書いての学習をバランスよく子どもたちにさせております。それが子どもたちの学力の向上につながっていると思います。

また、私がクラス担任をしている頃から、「表現力」が子どもたちの課題にありました。自分の考えを持つことはできても、それを人に伝えることがとても苦手という子どもが非常に多かったです。どうやってその表現力を育てるのかという点は、以前からも課題でした。今の猿橋小学校の子どもたちの授業を見ていると、タブレットで全員の意見を交換しながら学習を進めている教員もいます。なかなかみんなの前で発言することが苦手な子どももタブレット上では上手く発言できる子どももいます。また漢字学習の効果で語彙力も上がってきました。
先日、笹本先生のクラスの社会科の研究授業において、子どもたちの意見交換が非常に闊達でした。日々の地道な言葉の学習、その積み重ねがあってこそだと思いました。

記者:笹本先生も子どもたちの表現力の向上を感じていますか?

笹本先生:そうですね。子どもたちが「漢字のとびら」や「辞書引き」によって、さまざまな言葉に触れることで、国語以外の他の教科においても自分の言いたいことを表現しやすくなると思います。子どもたち自身の語彙力はとても大事であると思います。さらに子どもたちも自信が付いてきますから、コミュニケーションを取る意欲も向上して、良いサイクルが生まれますね。

記者:今後はどのようなことを子どもたちに期待していますか?

左:小林正樹校長先生 右:笹本恭平教諭

左:小林正樹校長先生 右:笹本恭平教諭

笹本先生:漢字学習で身に付けた自分で書く文章に使えることが、言葉を学ぶ上で一番大事だと思っております。ここで習った漢字が組み込まれた文章が「漢字」の単元ではなく、他の科目の文章にも使えるようになってほしいです。

私のクラスでしたら、5年生までに学習した漢字は、どんな文章を書く時にも、すべて漢字を使用して書いてほしいです。
もっと言えば、未習の漢字も辞書を引いて出てきたので、書いてみたいと意欲的になってほしいです。
新年度当初に比べて、どんどん漢字を入れて文章を作れるようになってきました。最終的には自然と漢字を使った文を書くことができるように子どもたちの能力を引き上げたいです。「漢字テストで点数を取っておしまい」ではなく、表現力の上達を子どもたちに意識させていきたいと思っております。

記者:小林校長先生は先生方や子どもたちにどのようなことを期待していらっしゃいますか?

小林校長先生:子どもたちが学習する意義は、ただ単に言葉や公式などを詰め込むのではなく、子どもたちがいかに実践できるかということだと思います。意味をしっかり理解しながら、それを楽しみながら学習するところがとても大事です。学習には意味付けが大切だと思います。「なぜこの学習をするのが大切なのか」子どもたちに興味を持たせながら学習させることを大切にしていきたいと思います。

記者:本日は貴重なお話しいただきまして、ありがとうございました。

以上

School Data

大月市立猿橋小学校

山梨県大月市猿橋町伊良原48
児童数:298名
学校長:小林 正樹先生

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