漢字学習をとおして「自学力」を高める

1/23号日本教育新聞企画特集では、群馬県・安中市立秋間小学校を取材させていただきました。
安中市立秋間小学校では、今年度4~6学年で『漢字のとびら』を導入いただきました。
日々の漢字学習から「自学力」を磨く。その取り組みについて伺いました。

日本教育新聞「企画特集」と併せてご覧ください。
日本教育新聞「企画特集」2023年1月16日PDF

安中市立秋間小学校
右:校長 木口 敦子先生/左:研修主任 岩﨑 杉子先生/中:4学年担任 田島 大地先生

右:校長 木口 敦子先生
左:研修主任 岩﨑 杉子先生
中:4学年担任 田島 大地先生

主体的に学ぶ力を付けさせたい

記者:まず、「自学力」に焦点を当てた教育方針、教育目標から伺えますでしょうか。

木口校長:私は本校に着任して3年目です。1年目は新型コロナ感染対策元年でした。休校期間の対応、タブレット導入のための環境整備、授業改善に日々追われてまいりましたが、2年間子どもたちの実態を見てきた印象は、とても素直で、指示されたことには素直に従う従順さがあるということです。小規模校で周囲の大人から手が入りやすい環境であるためか、子どもたちが自分で考え、意思をもって主体的に関わる場面が少ないように思います。また素直さと裏返しで、諦めるのが少し早く粘り強さも不十分かなと感じます。
本校では昨年度より、群馬県教育委員会・西部教育事務所から「学力向上実践事業指定校(兼ICT活用促進プロジェクト実践推進校)」の指定を受けています。「本校が求める学力とは何か」からスタートし、模索を続けてきました。1年目の昨年度は、国語科での言語能力の育成と他教科における言語能力の活用をベースに、「主体的・対話的で深い学びの実現のため、自ら学び、考え、表現できる児童の育成」を研究テーマにしました。
学校教育目標に「育てよう!未来に続く『生きる力』~家庭・地域と共に~」を掲げ
1 学びをつなぐ力(知)
2 強くてやさしい心(徳)
3 元気な体(体)
を三つの柱としています。1つ目の「学びをつなぐ力」=「学ぶ力」をキーワードとし、授業改善のための試行錯誤を続けてきました。昨年度はICT活用も行いながら、子どもたちの主体性がだいぶ見られるようになりました。しかし、児童一人一人が自分の学びを自分で評価し、改善していく力が実際付いているかという疑問がありました。
私自身、「学びの主体性」こそ、生涯学び続ける人材に欠かせない力であると思います。
今年度発足した学校運営協議会でも、本校の児童に求める力について「自分で学ぶ力をぜひ身に付けさせてほしい」という意見が出ました。
今年度の教育方針は「主体的・対話的で深い学び」に加えて「個別最適な学び」にも視点を向けています。児童自ら、自分の意思や工夫で学んでいく力、そして自分の未来へ学びをつないでいく力、これを本校では「自学力」と名付けています。その「自学力」を授業と家庭学習の両場面において向上させるよう取り組みを工夫しております。
「自学力」の向上を中心にすえた今年度の校内研究において目指す児童像は三つです。
1 「自分の課題を見つけ、課題に必要な知識・技能を身に付ける子」
2 「相手と自分をつなげて考え、表現できる子」
3 「未来の自分を想像し、粘り強く学びを続けようとする子」
「2」については、授業中の学習活動によるところが大きいと思いますが、「1」と「3」については、授業中においても、個々の学習場面または家庭学習の取り組みの改善によるところが大きいものです。「個々の学習場面」「家庭学習の取り組み」に対し、先生方はこれまでにない様々な工夫に挑戦し、それを継続しているところです。

『漢字のとびら』を「自学力」の入り口に

記者:そのような教育方針と『漢字のとびら』はどのようにつながったのでしょうか。

岩﨑先生:今年度『漢字のとびら』を4、5、6年生が使っています。今までは一般的な漢字ドリル使用していました。『漢字のとびら』の存在を知り、審査用見本の依頼をして内容を見たところ、予習型の学習にも有効ではないかと思いました。今までの漢字学習は、書き順、新出漢字を使った熟語など授業の中で一緒に学習し、漢字練習も「〇ページまでを何回書く」というように教師主体で進めることが多かったです。しかし「自学力」の向上を目標に考えると、子どもたちの「考える力」が欠かせなくなります。まず漢字学習で「考えること」をやってみようと思ったのがきっかけです。自分は何が間違いやすく、間違えないようにするために何が必要なのかを考える学習法にしたいと思いました。
そのように考えたとき、『漢字のとびら』は、(漢字の)間違いやすいところがクイズ形式で載っており、送り仮名の間違いを正すような問題があります。先生が一つ一つ指摘しなくても、『漢字のとびら』を見ると間違いやすいところが自分で発見できる。その点がいいと思いました。私は6学年の担任ですが、4、5年生の先生にも紹介しお薦めしたところ、4年から6年まで統一して使用することになりました。
『漢字のとびら』は授業後の復習にも使えますが、予習型としても取り組ませることができます。そのことは他の先生と共有しています。ただ学年によって発達段階が違いますので、児童の実態に合わせた活用法を工夫しています。

岩﨑先生:漢字テストはダウンロードし、プリントアウトして使用するものなので、1度で終わらせず何回もやり直しができます。4、5、6年生は、当該学年分の漢字テストを事前にダウンロードし、全部をプリントアウトして子どもたちに配りました。それを子どもたちはファイリングしています。

記者:最初に全部渡してしまうのですか?

岩﨑先生:はい、そうです。そのようにすると、漢字が得意な子は(授業でやっていなくても)どんどん先に進めます。逆に漢字が苦手な子は、間違えた漢字テストを何回も復習したりチャレンジしたりしています。その子のペースで学習を進めることができるので、テストは全部プリントアウトして渡しています。

PDCAサイクルを取り入れて

記者:自分で計画して学習ができる体制を作られたわけですね。

岩﨑先生:そうですね。練習をする→テストで試す→間違いを分析する→間違えた漢字は練習するPDCAサイクルです。これを学習法に取り入れてみようと思い、昨年6年生で試験的に少し導入しました。自学力を付けるためにとても適していると感じたので、今年度、まず漢字学習の中に取り入れてみませんかと提案しました。4年の田島先生は特に賛同してくれ、積極的に取り入れてくれています。
6年生の子どもたちには、テストはファイルにとじていくように伝えています。間違えた漢字は、どんな部分を間違えたのかを分析表に付けています。すると、自分が間違えやすい漢字の特徴が見えてきます。子どもたちはその部分に気を付けて書くようになりますし、間違えた漢字だけを後で練習すればいいので効率よく学習することができます。
このPDCAサイクルを取り入れた漢字学習法について、子どもたちに感想を聴きました。「自分のペースで学習ができる」「自分の間違いに気づくことができる」「苦手な漢字が分かった」「間違えた漢字、覚えているか不安な漢字をテスト前に練習すればよいのがいい」「覚えている漢字を何回も練習しなくてもいい」「(1年分の漢字テストが手元にあるので)自分で勉強したところのテストができる」このような声が聞かれました。
『漢字のとびら』についても聞いてみました。
「漢字の細かい部分(「とめ、はね、はらい」など)が示されている」「間違えやすいポイントが示されているから、練習するときに間違えて書かなくなった」の声が上がりました。
特に子どもたちから好評なのは「送りがな名人」「書き名人」です。このコーナーをノートにまとめて書いている子もいます。漢字ノートの使い方も工夫をするようになりました。ただ繰り返し漢字を練習するだけではなくなりましたね。

本校では、国語科の学習の中で、言語能力の育成を自学力向上の一つとして考えています。一つ一つの言葉を選ぶということは、自分の学びになると思います。また、ICTの有効活用にも努めています。
今まで子どもたちは、作文など原稿用紙に書くのが当たり前でした。しかし一般社会では、パソコンのワープロ機能を使って文章を書くことが増えていますよね。パソコンのワープロ機能の方が修正、編集するのは楽です。国語科の学習の中ではもちろん原稿用紙に書く学習もしていますが、子どもたちの将来を考えると、タブレット端末やパソコンをうまく活用していくことも必要だと思います。
また、友達の意見や考えを共有したい時にもタブレット端末の活用が有効です。教師がチェックするのではなく、子ども同士でチェックし合うことができるのもいいです。友達の意見を聞いて、その中から自分で取捨選択し、いいと思うものを取り入れて自分の意見を修正していく。ここにもPDCAサイクルを当てはめることができますし、自学力の向上に役立っているのではないかと思います。

「やらされる」から「自らやる」へ

記者:他の学年ではいかがですか。

田島先生:私は 4学年を担当しています。今年1年、子どもたちの変化を実感していますし、教えている私もとても楽しいです。
『漢字のとびら』でとても助かったと思うポイントは、間違えやすい部分に気付かせるコーナーがあるところです。漢字学習では、間違った漢字を覚え、そのまま何回も練習してくることは本当に意味がないと思っていました。漢字を書くだけでなく、その漢字の特徴や間違えやすい点を指摘した内容を書いてきたり、ノートの使い方も変わりました。1学期は『漢字のとびら』を見て書いてくる子もいて、お手本のようになっていましたが、2学期後半は自分のオリジナルをノートに書いてくる子どもが増えました。『漢字のとびら』は、子どもたちにとって学び方を覚える入り口になりましたし、教師も教えやすかったと感じています。

記者:自学力の取り組みの成果についてはいかがですか?

田島先生:私自身が「自学力」という言葉に共感を受けていますし、とても納得をして取り組んでいます。常に教師が指示を出し全員が同じことをする、漢字学習で言えば教師が範囲を指定して、全員がそのページの漢字を宿題でやってくるような進め方でよいのか疑問を抱いていました。
今年度は、子どもたちに少し任せてみたいと考えました。自分で計画を立てて学習する。学習計画表を自分で作り、自分で進めていくという方法を始めました。
例えば『漢字のとびら』の関連ですと、テストをいつやるのか、先生にいつ提出するのかが、2学期分全部書かれています。これは子どもたちが自分で決めて、前もって書いているのです。例えば、テストに向けての取り組みも自分で決めています、毎日コツコツと練習してもいいし、直前に一気に練習してもいいのです。自主学習との向き合い方を自分で決め、その評価を自分でしていきます。自己評価の欄と先生の評価の欄があります。自分の評価に対し、先生の評価はどうなのか。あまりに違う場合は、自己分析がうまくできているかな?ということになります。自己評価で「B」が続いている子であっても、教師の側がアドバイスをすることもあります。計画表の「点検日」という日がありまして、その日は先生や周りの子たちや先生と計画表を交換、確認します。お互いにノートを見せ合ったり、B評価をA評価にするためにはどうすればいいのかを話し合ったりする機会を設けています。子どもたちに任せっきりにするのではなく、きちんと自学力の学び方を教え、身に付ける機会をとるようにしています。
ある時、計画表の中に別枠を作り「質を高めてやる」「量を多くやる」と決めていた子どもがいました。子どもたちがそれぞれ考え、工夫して計画表を出してくるので、自分も勉強になりますし見ていて楽しいなと思います。子どもたちからこのような発想、考えが出てくるのは、学校全体で「自学力」をテーマにしているからではないかなと思います。そうでなければ、ここまで行きつかないと思います。子どもたちの成長には本当に驚かされますし、日々楽しいです。

異学年交流会でブラッシュアップ

岩﨑先生:「最上級生である6年生の学び方を参考にして、4年生の学びも高めたい」という思いから、4年担任の田島先生が交流会を提案・準備を進めてくれました。交流会では、6年生・4年生混合のグループを作り、6年生がリーダーシップをとって進めます。『漢字のとびら』を活用した漢字ノートを紹介し合う活動、6年生が先に具体的な「めあて」を立てて紹介し、それを参考に4年生が「めあて」を考え、6年生がアドバイスをするという活動、参考になる6年生の自学ノートをみんなで分析し合う活動などを行いました。
『漢字のとびら』は初めての教材だったので、1学期の交流会で「ノートにこんなふうに書いて使っています」と紹介し合いました。6年生はノートにイラストを付けたり矢印で説明を付けたりいろいろ工夫していました。そのような例を紹介すると、4年生はそのノートを見ながら一生懸命自分のノートに書いていました。逆に6年生にも(ノートを取ることが)苦手な子はいるのですが、4年生の一生懸命な姿に刺激を受け、もうちょっと頑張らなくちゃ!と張り切る子もいて。お互いにノートを見せ合うことが相乗効果につながっています。
2学期の交流会では、漢字学習から他教科へ広げていこうとしています。6年生は特に社会のまとめや、算数で活用、応用問題に取り組むなど、包括的な自学力の向上を目指し幅広くいろいろなことを行っています。
5年生も同様に『漢字のとびら』使っています。ノートには漢字を書く時のポイントを書くなど工夫をして取り組んでいます。交流会には今回参加していませんが、同じように進めています。一方的ではなく、教職員と子どもたちが手を取り合って、自学力の向上に向かっていくことが大事なのかなと感じています。

記者:子どもたちの成長の姿をお話いただきありがとうございました。今後目指したいいことがあれば教えてください。

田島先生:『漢字のとびら』で得た学び方を、漢字学習だけでなく他教科へも広げていきたいと思います。今はPDCAサイクルを他の教科にも取り入れています。どの教科でも適応できる自学力を身に付けることが目標です。

岩﨑先生:研修主任として、先生方の意識を変えることが課題としてあります。そうでないと、漢字学習の進め方、宿題の出し方など子どもたちの学習方法が変わりません。
本校は、令和3年度から「群馬県ICT活用促進プロジェクト・西部地区学力向上実践事業」の指定を受けました。そのことに伴い、校長先生が中心となってしっかりとした教育方針を出してくださっています。その方針に則って研修を進め、各職員に伝えていくことが私の役割だと思っています。指定を受けたことで方向性が明確になり、今までの考え方を変えるいい機会になったと思います。

将来に必要と思われる力を、今から付けていく

記者:最後に今後の目標を校長先生からお話しいただけますでしょうか。

木口校長:子どもたちにとって身近な自主学習が、漢字学習・音読・計算練習に当たるかと思います。「自学力」を考えたとき、「漢字学習」から着手したことがとてもよかったと思っています。ICT活用も大事な要素ではありますが、ノートに手書きすることの良さもあります。どちらかに偏るのではなく並行して進めていくことが必要なのだと思います。
子どもたちを見ると、漢字学習を通して自分の課題を見つける目が育ってきていると思います。今の取り組みを他教科、総合的な学習の時間の地域学習へと広げていく予定だと教職員から聞いております。いずれは世の中の課題発見力にもつながっていくのではないかと思います。子どもたちには、自己評価を重ね、試行錯誤を繰り返しながら課題解決のために自分は何をしたらよいかを考えられる人になってほしいです。様々な社会課題に対し、自分はどんなアクションができるのか。失敗してもまた違う方法を考え、やってみようと意欲的に捉えられる人に成長してほしい。そのような人になる入り口の取り組みを、本校では今行っています。これをキャリア教育につなげていきたいと思います。
教職員が全員同じ目標に向かってベクトルをもつということが、学校にとってはとても大切です。そのためには、校長が自分の責任として方向性、ビジョンを示すことが必要です。職員一同で研修をしながら、しっかりと目標を示していきたいと思っております。

記者:今後の成長がとても楽しみですね。本日はありがとうございました。

以上

School Data

安中市立秋間小学校

群馬県安中市東上秋間1831番地
児童数:101名
学校長:木口 敦子先生

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