日本教育新聞連動企画

「地域運営委委員会による学習会(学力アップ大作戦)」
~高崎市、放課後学習教室のあゆみ~

 群馬県高崎市では、市内全ての小中学校で地域ボランティアの力を活用した放課後学習教室を実施。学力向上の成果を上げていらっしゃいます。現在「Study Planets」を学習材として使用いただいていますが、高崎市の取り組みの経緯について、教育長、教育委員会の方にお話を伺いました。

【2020年12月24日現在】

日本教育新聞 取材記事と併せてお読みください。

日本教育新聞「企画特集」2020年2月22日 [PDF]

「学力アップ推進事業」の生い立ち

日本教育新聞記者:

まず初めに、放課後学習教室を高崎市として導入した背景、狙いについて教えてください。

高崎市教育長 飯野 眞幸氏

高崎市教育長 飯野 眞幸氏

飯野教育長:

 放課後学習教室は、施策としては「学力アップ推進事業」(「学力アップ大作戦」)と申します。平成24年度に学力向上推進会議を立ち上げ、準備に入りました。そして平成26年度より、高崎市内83校すべての小中学校で、放課後や土日を利用した学力向上の取り組みとして始まりました。その目的は、学習への意欲向上と基礎学力の定着です。
 教育長就任当時から、高崎市の小中学校での学びを全国のブランドにしたい、という意気込みがありました。教育長に就任した際いろいろな政策を考えましたが、基本戦略の大きな柱は2つ「学力向上」と「いじめの防止」です。
 私は教育長に就任して10年になりますが、以前は県立高校の校長を務めておりました。高校3年生には大学受験に向けた進路検討会を開くのですが、他の教科と比較して数学だけ弱い生徒が何人かおりました。生徒にその理由を尋ねると、中学の頃から数学に対して苦手意識がありコンプレックスになっている、数学は面白くないと言うのです。その事がずっと記憶に残っておりました。まず、学力をどうやって上げるかを考えた時、児童・生徒が苦手意識をもっている算数・数学を何とかしたいと考えました。そこが原点です。
 現在の高崎市長(富岡賢治氏)は文部省出身で、教育に大変理解のある方です。政策について市長に相談したところ理解をいただき、「学力アップ推進事業」が市内全ての小中学校でスタートしました。今年で7年目になります。「学力アップ大作戦」は地域運営委員会が中心となり運営しています。校区内の地域ボランティアによる学習支援事業ですから、基本的に学校教員はタッチしません。7年間継続できたのは、地域ボランティアの方の高い意識のお陰です。毎年2回、教育委員会主催で地域運営委員会の代表者を集った全体会を開いています。各学校の取り組みについての発表を聞いたり意見交換を行ったりする場ですが、その熱気は凄いものがあります。本当に熱心で前向きですね。子どもたちのために参考書で勉強されている方もいました。地域によってはかなりご年配の方もいますが、生涯学習の一環として、「自分も学ぶんだ」という気持ちで臨まれています。そのような思いに応えるためにも、各学校の校長先生には、後方支援としてボランティアの方が本当に気持ちよく子どもと接してもらえるような環境作りをお願いしています。全てをボランティアの方に任せるのではなく、学習教室に顔を出してお礼を伝えるなど、日々感謝の気持ちを忘れずに実行いただいていると感じています。
 「学力アップ推進事業」を立ち上げる際、生活困難家庭への対策にしてはどうかという声もいただきましたが、それはしたくありませんでした。放課後教室に参加している子は家庭が大変なのだと、周りに教えるようなことはしたくありません。もうひとつ、成績が良くないから参加しているというイメージが付かないようにも心がけました。誰でも参加が出来る学習の場にしたいと。参加することで子どもが肩身の狭い思いをしたり、劣等感を持つようなことを大人がしてはいけません。今、「学力アップ大作戦」に参加している児童・生徒に対して偏った見方をする人はまずいらっしゃらないですね。

教育委員会の担う役割

 市内全ての小中学校で継続的に行っていくために、この事業には教育委員会も深く関わっています。年2回の運営委員会全体会に加え、学習支援コーディネーターの方へのフォローアップ研修も行っています。運営と人材の確保は基本的に地域の方々にお願いしておりますが、高崎市も合併が進んで地域が広くなり、学校の規模、児童・生徒数にも差があります。ボランティアがなかなか集まらない地域も中にはありますので、その場合は教育委員会が人材バンク的な役割を担うこともしています。

学習支援ボランティアの方々

学習支援ボランティアの方々

高崎市教育委員会 学校教育課依田課長補佐:

 地域運営委委員会発足当時は、教育委員会が近隣の大学へ足を運び、事務局を通して学生ボランティアを集めてもらう事もしました。現在も教育学部を持つ大学にはお願いをするために通っています。大学だけでなく高校にお願いすることもありますね。

飯野教育長:

 高校生、大学生は児童・生徒との年齢差が少なく、身近なお兄さん、お姉さんに教えてもらっている感覚があり親近感を持ちやすいですよね。ボランティアを経験した学生の中には、そのことがきっかけで教員になった人もいます。人間教育の一環として、今後も継続していきたいと思います。
 私も地元の小学校の放課後学習に関わっています。小規模校で「寺子屋」という名称で行っていますが、毎回、授業が終わるとほぼ全員の子どもたちが参加しています。まるで授業の延長のように、自然な雰囲気で子どもたちは勉強をしていますよね。子どもたちには、1年間終わると感想を聞いていますが、非常に肯定的な意見が多いです。中学校は放課後の大半に部活動が入っていますので、部活動で参加できない生徒を対象に、土日にも学習の場を設定しています。
 当初「算数、数学を好きになってほしい」という思いから始まりましたが、現在は各学校で工夫を重ね、中学校では英語、小学校では国語も加えるなど学習対象の教科数も増えています。その中で、Study Planetsのプリント教材は非常に使いやすく、うまく利用しています。今年は新型コロナウイルス感染による休校期間がありましたが、通常学校で使用するプリントを家庭学習でも活用できるようにしました。大変使いやすくて好評です。プリントの教科が算数、数学だけでなく、小学校は4科目、中学校は5教科提供されているので、その点でもかなり実績は上がっています。

「学力アップ推進事業」の真の目的

飯野教育長:

 教育長に就任して感じたことなのですが、市として「学力向上」を前面に押し出すと、(テストの)結果に焦点が集まり、点数を上げるための施策と思われがちです。しかしこの政策は、そこが目的ではありません。子どもの眠っている学力を刺激し伸ばしてあげることは、その子の自信につながります。その部分を、地域が助け支えることを目指しています。高校に勤めていた時に感じたのですが、保護者の中には、わが子には無理に勉強をさせなくてもいいと思う方もいます。しかし、その子の持っている潜在能力や可能性を最大限に引き出してあげる支援を、地域で行える体制を作りたいと思いました。加えて児童・生徒の学習に対する意欲・関心が高まるような手だて、施策を講じてきました。そのような体制を作れば、小学校から高校まで理想的な学びの流れが出来るのではないかと感じています。

 「学力向上」とともにもうひとつの柱が「いじめの防止」です。いじめがある学校や環境では、学力は上がりませんから、このふたつはリンクしています。教職員がいじめの対応に追われれば、本業である学習指導は十分にできません。いじめがなくなれば、教員は自分の得意な教科・分野に特化した授業や学習指導を行うことができます。いじめのない環境づくりが大切だと、各校の校長先生には伝え続けています。「いじめ」と「学力」は車の両輪。いじめのない学校になれば、学力は必ず上がると言い続けてきましたが、その結果、全国学力テストでもよい成績をキープしています。前回初めて全国学力テストに英語が加わりましたが、高崎市の中学3年生の英語の学力は全国第1位グループの中に入ります。英語はネイティブとの関わりが非常に大事だと聞き、中学校全校にALTを配置しています。地域の力と学校で頑張る先生方の力があって、高崎市は現在を迎えていると思います。
そういったことの積み重ねが結果に繋がり、着実に根付いていると自負しております。高崎市の教育のブランド化はされつつあると、客観的に見て感じていますね。

放課後学習教室の実態について

記者:

放課後学習教室の実施についてもう少し詳しく教えてください。

高崎市教育委員会 学校教育課 橋爪課長:

 放課後学習教室は学校によって週1回から3回、毎週月曜日など曜日を決めたりしながら行っています。中学校の場合は部活動がありますので、学校によって部活動に休みの日を設けたり、月曜日の職員会議の時間に合わせて行う学校もあります。各学校の地域運営委員会の実態に応じて進めています。加えて日曜日に、学力アップ推進事業の一つとして「中学生休日学習相談ステーション」を市内9カ所に設けておりますが、その中で補完的に行っている地域もあります。

学感染対策を施しての放課後学習教室

感染対策を施しての放課後学習教室

記者:

実際に教室で使われている教材について教えてください。このプリント教材を使うメリットは何だったのでしょうか。

学習材としてのStudy Planets
連立方程式 要点のまとめ【テーマ】

連立方程式 要点のまとめ【テーマ】

橋爪課長:

 現在使用しているStudy Planetsは、以前算数、数学に特化したものでしたが、昨年度から小学校4科目、中学校5科目に対応したシステムに拡充されました。児童・生徒が選定しやすいプリント問題であることがポイントとして大きかったです。基礎学力の定着に適していますし、問題量も豊富でした。他のものと比較しましたが、われわれが求めている内容と合致したので導入しました。

飯野教育長:

 高崎市の学力アップ事業を継続していく上で、一つの推進力になり得る教材であったということ。ボランティアの方にとっても使いやすかったこともありました。特に中学生の自学自習に適した教材ではありますね。

橋爪課長:

 私は以前中学校におりましたので、よく放課後学習教室の様子を見に行きました。生徒たちは、入室すると学習コーディネーター(ボランティアの方)のところへ行き、それぞれ希望する単元のプリントを出してもらい、問題を解いていきます。その中学校には大学生のボランティアが多くおりましたので、生徒と一緒に解きながら教えてくれることもありました。定期テスト前には、プリントを家に持ち帰り学習する生徒もおりました。個々に応じた自主学習を進める上で、非常に効果的で内容が充実した教材です。
 小学校ですと地域の保護者の方の協力が大きいです。解いたプリントの丸付けをするだけでなく、子どもたちに声を掛けて励ましてもくれます。そういったことがとても助かっていますね。

飯野教育長:

 Study Planetsはプリントの内容が丁寧です。
ボランティアの方々が一番悩むのは、説明や解説の部分です。(プリントの)丸付けは解答を見れば出来るのですが、なぜ児童・生徒が間違えたのかを理解し、指導したいと思われる方もいます。また、教える、指導する事の経験がない方にとっては戸惑いもあります。Study Planetsは解説や説明が丁寧なので、そのような場合でもうまくフォローできると感じています。操作方法が煩雑でなく、ボランティアの方にとって使いやすいシステムだという点も大きいですね。

橋爪課長:

 新型コロナ感染拡大による休校中は家庭からもアクセス出来るように対応してもらったのですが、保護者の方にも好評でした。自宅学習をする上で、児童・生徒にとっても使い勝手が良かった点は非常に大きかったです。学校再開後は、学校の授業でも使っています。特に中学校では、単元確認プリントとして、または自習用プリントとして活用しています。放課後学習だけでなく、学校にとっても利用価値のあるアイテムだと感じています。

自己肯定感を高めるために

依田課長補佐:

 学校に話を聞いたところ、計算問題から文章題までと幅が広く、問題量が多いので子どもが飽きない。単元構成が細かいので、躓いているところへのフィードバックができる。高校の数学Ⅰ、数学Aの問題もあるので、中学生で数学が得意な子には、高校数学を試してみるという良さもあります。幅広さと量の多さ、これはありがたいという声は聞いてきます。
 学校によっては、先生の声掛けによって参加している子、自ら希望して参加している子と様々ですが、自分の弱点(理解が不十分な単元)を克服するための学習が中心というところもあります。その意味では学力の底上げ、苦手単元のフォローアップにはつながっていると感じました。

記者:

子どもたちも、自分の課題がどこにあるのかを自覚しながらこのプリント教材(単元)を選んでいるところもあるのですね。

個々に合った問題に取り組み学習をおこなう

個々に合った問題に取り組み学習をおこなう

橋爪課長:

 そうだと思います。学習コーディネーターを中心に、児童・生徒の学習履歴も蓄積、管理しています。学年が上がっても、昨年度はどこまで学習していたのか、今年度はどこからスタートすればいいのかが分かります。

飯野教育長:

 いくつかの学校訪問をして学習場面を見学させてもらいましたが、児童・生徒がこのプリント教材をやらされているという感じではなく、自ら学ぶ姿が見られました。これは学力に限らないことですが、高崎の子どもたちの自己肯定感はかなり高いです。苦手教科、嫌いな教科があると子どもの自己肯定感は下がります。この放課後学習教室が、自己肯定感を上げる場、きっかけになっているのではないかと思います。そんな雰囲気を子どもたちが持っていると感じます。
 高崎市は、やる気のある子をバックアップする体制を整えてきています。学力アップ推進事業もそのひとつですが、学校と地域、家庭が手を結んで見守ることが、児童・生徒の頑張ろうという意欲を高めているのかもしれないです。

記者:

地域が教育を支えていることがよくわかりました。本日はありがとうございました。

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