日本教育新聞・企画特集(1月28日号)連動取材の第2弾は、新潟県加茂市立加茂南小学校です。
加茂南小学校では7年前に「アイテム」算数を導入。当初より学校全体の取り組みとして、授業や家庭学習など様々な場面で活用いただいております。本稿ではその具体的な活用法や成果などを中心として、目黒隆校長と笠原崇先生よりお話をいただきました
授業改善のポイントとその具体
まずは簡単な学校紹介をお願いいたします。
目黒校長
教育目標として掲げ、本校の校歌の歌詞にもある通り、朗らかで爽やかな子どもたちが多く、本当に健やかに育っています。グランドデザインでは「心の教育」、「学力向上」、「体力・健康作り」を三つの柱として、具体的に目標を設けまして、教育活動に取り組んでいます。
特に学力向上においては、昨年度より市の指定研究校として2年間に渡って取り組んでいるところです。かかわり合いの中で考えを深める子どもの育成ということで、研究主任の笠原先生を中心に算数科の教科で一生懸命やっています。おかげさまで、全国学力状況調査では算数において2から3ポイント向上してきています。NRTについてもだいぶ数値が高くなってきていますね。
算数科の研究という事で、授業改善などいろんな方向で取り組まれていると思いますが、全体像として具体的にはどのようにされていますか?
笠原先生
まず、本校の子どもたちは、考えを持てていても型にはまったきれいな正解を言わないといけないんじゃないかという子どもや、途中までは分かっているけど、その先が分からないからもう考えが言えないという子ども。また、なんとなく道筋は見えているけど、うまく説明できないからといって黙ってしまうような子どもたちが多かったんです。つたない言葉でも途中でも、なんとかそれを言葉や文に表して表現することで、そこから友達がまたつないだり、それをヒントに考えが広まったり深まったりするんです。ただ、一斉学習ではなかなかそこが難しかったので、グループやペアとなり、その活動の中で自分はどう考えたのかを説明する。そして、不足しているところがあれば友達が補うとか、この続きはこうするんだよというのを教え合う。このように学習形態を工夫しながら、子どもたちがお互いの考えを話し説明する、つないであげるということをしているところです。
また、私たちの授業者の反省ですが、これまでは「今日はこれを教えればこの授業はいいんだ」というような考え方でいました。そうするともうゴールのことしか考えていないんです。つまり、どうやって子どもたちに学び取らせるか、発見させていくのかというところまで考えていなかった。全く考えていなかったわけではないですが、子どもたちに発見させるという視点が少し欠けていて、どうしても教師側から与えるという姿勢の授業が多かったんです。そうするとやはり提示する課題が重要になってきます。例えば、「三角形の面積を求める公式は、これまで学習したものを使ったらどういう形で作れるだろうか?」という課題。とにかく子どもたちが試行錯誤しながら、図形を切り張りして動かしたりしながら、友達と考えを話し合うんです。いろんな考えが出たけども、結局みんながやってきたのは、算数的用語だと「底辺×高さ」で、どこにも「÷2」があるからというように、自分たちで公式を見いだしていく。そんな授業を作り出そうと取り組んでいるところです。
重要な点は「課題の質」と「学習形態」
そうするとやはり課題の質というのが問われるんですね。
笠原先生
課題の質は大切ですね。あとは学習形態です。これまでは「最初にペアにして、全体で考えを出し合って、またペアに戻す」という流れや、高学年の場合は「1人で考えて、グループで考えを話し合って、全体で各グループの考えを発表する」という流れ。この流れの中で共通点が見えて、そこから法則が見いだせるみたいな考え方でした。しかし、先日行われた指定研究発表会で、加茂市のいろんな先生方からご指導いただいものとしては、それも1つの流れでしょうと。ただ、やはり子どもたちの学習の生の実態から、タイミングを見計らって、グループなりペアなり、全体なりという学習形態を可変的に工夫していくことが必要ではないかというご意見をいただきました。
最近よく見ますね。個人でまず作業して、グループで共有して、最後発表して、クラス全体でまとめるという形態。それ自体も、ある種型にはまってしまっているところがありますよね。
笠原先生
ええ。ただ単純にそれだけではないでしょうというようなご意見をたくさんいただいています。
クラスはわりと少人数ですよね。
笠原先生
はい。地域性と言いますか、少人数で育ってきた分、全員の前での発表となるとなかなかオドオドして話せないですね。
単に人数が減れば話しやすいというわけでもないということですね。
笠原先生
ええ、ないですね。やはりちょっと解けそうだぞとか、習ったこれを使うとできそうだぞというような見通しを子どもに持たせることがすごく大切です。既習事項、習った中の何を使うと今回は解けそうかという見通しを持たせること。それから課題の質。それが良ければ子どもたちが動き始めるというところが見えてきています。
では、やってみたいと思わせるような課題があって、その上でこれまで学んできたことが役に立つということを知っているということが大事なんですね。
笠原先生
そうですね。
分かりました。では「アイテム」の話に移ります。「アイテム」はこれまでお話いただいた研究指定の取り組みよりも前から使われているんですよね。
笠原先生
はい。私ここ来て6年目なんですが、赴任したときにはもう使っておりました。
導入の経緯はご存じですか?
笠原先生
「アイテム」はちょうど7年前に、2代前の校長先生が導入されました。当時は、学力的に下の子どもを伸ばそうというよりは、もっと上に伸びる力のある子たちがいるはずだからというので、「アイテム」を取り組ませることでそこに寄り添えるよう導入したと伺っています。
「アイテム」にはちゃんと基礎基本のページもあるので、そこをうまく使えば、計算ドリル、今までやった反復練習も十分できるはずだからということでした。当時からこれまで、ずっと全学年で使い続けてきています。
それまでは繰り返しドリル、計算ドリルを使用していまして、学期ごとに1学期用、2学期用、3学期用という形でした。保護者の方々にとってみれば、950円というと「えっ?」と思うかもしれないけれども、「アイテム」は1年間1冊でできるし、今まで買っていたドリルの3冊分なんですよという事でご理解いただきました。
私が着任した頃、懇談会で保護者の方々と話をした際には、「なかなか難しくて」とか、「うまく子どもが使いこなせず親もちょっとうまく教えられなくて」なんていう声も上がっていたんですが、最近はもうこれが当たり前になってきていますので、特に何か言われる事もなくなりましたね。
加茂南小での「アイテム活用術」
笠原先生は6年目ということですが、具体的な活用の方法については当初から変わってないんですか?
笠原先生
大筋は変わってないですね。基本は授業で扱うというところです。「アイテム」は4つのステップで構成されていますが、3ステップ目の「活用」まではとにかく全員に取り組ませます。ただし、学年によってここまではちょっと厳しいという学年については、じゃあ1、2ステップ目の「習得」まではしっかりやりましょうと。4ステップ目の「探究」のページは、さらにチャレンジしたい子が取り組めばというふうに。授業場面で具体的に言いますと、前時の学習という形で取り入れたり、授業の終わりに「じゃあ、ちょっと練習問題をしてみよう」というところで教科書の問題をやって、さらに「じゃあまだ10分あるから、みんなでもっとたくさんの問題こなしてみよう」と「習得」の部分を取り組ませたりします。今の教科書は単元の終わりのちょっとした力試しで、やり応えのある問題なんかが増えていますよね。この場面になると、けっこう私は3ステップ目の「活用」なんていうちょっと難しいものも取り入れています。かえって教科書をしないでこっちをやってしまうときもあるんです。教科書の問題はもうできるはずだからこっちをやってみてと。そうして子どもたち同士で解き方を考えたり、前に出てみんなで説明したりという学習活動を組むことがあります。そうやって使っています。ただし、全部の内容を授業でこなすことはできませんので、授業で残した分は家庭学習や自主学習で補うようにしています。「アイテム」の答えには解説もちゃんとあるので、分からないときはそれを見ながらと取り組むという形ですね。
答えは子どもたちに配布しているんですね?
笠原先生
はい。これはもう信用して渡しています。やりっぱなしでは力がつかないので、子どもたち自身で丸つけ見直しも含めてやってくるようにしていますね。該当したページがちゃんと終わると、私はシールを貼ってあげています。隣のクラスでは「アイテム」を取り組む上で、担任が自作の進行表を作って進める工夫をしたりしています。
取り組みの過程を具体的に示しているんですね。
笠原先生
はい。アイテムの目次にそれを示してあげている先生もいます。例えば、1期中には必ずここまで終わらせましょうというようなところですね。高学年なんかは、子どもたちに提示してやっていますが、低学年だと保護者にもお便りでお知らせして、子どもと一緒に取り組んでいただいています。
家庭学習もフリーにするわけでなく、ちゃんと「ここまでやりなさい」と。
笠原先生
はい。やっぱり枠は必要ですね。
「アイテム」導入のきっかけ
分かりました。授業ですと導入とまとめでの活用がメインなんですね。
笠原先生
まとめの部分で更に言えば、単に授業の終わりだけでなく、単元の学習の終わりのまとめのところで扱うときもあります。「アイテム」1問で1つの授業が終わる時もあるんですよ。例えば、どうもみんなの答えが割れていると。問題によってはこれはちょっと捨て置けないので、「じゃあ、みんなちょっと待って」と。できているところはパパパッと答え合わせして、「きょうはこの問題をみんなで考えましょう」と、取り立てて指導をする時もあります。
教科書問題の一歩先を
教科書の問題より難しいんでしょうか?
笠原先生
これまでの教科書はどちらかというと、全国学力状況調査でいうところのA学力的なものが多かったんですが、「アイテム」はもうB学力的なものが満載で出ていました(笑) 子どもたちの様子見ますと、「アイテム」解き応えがあるというところが非常にありますよね。複数の既習事項を組み合わせないと解けないところが、この「アイテム」の魅力だと私は思っています。
本当にこどもたちにつけさせたい力
確かに、よくあるドリルは一つの単元に対して、そこで習った事をただ当てはめていけばすぐ答えが出るという感じですけど、「アイテム」の場合はそうじゃなくて、そことは別のところからもう一つ二つ持ってこないといけないですよね。
笠原先生
そうなんです。実は何年か前に、職員研修の中で「アイテム」をやめようかという話が出ました。私が言ったんですが(笑)、やっぱりまずは基礎基本をもっと抑えたいと。低学年なんかは直接書きこむので、1回やってしまう反復が難しいですし、計算ドリルに戻しましょうと意見を出しました。しかし当校の先生方は、基礎基本の反復は「アイテム」じゃなくて市販のプリント集を毎回やらせれば補えるけども、活用する力をつける問題は、ちょっと「アイテム」以外には見当たらないので、継続して使っていきましょうという意見でまとまったんです。 今は「アイテム」の問題とプリント集で基礎基本の定着をしつつ、やはり本当にしっかり考えさせるという力をつけるのが目標ですので、「アイテム」の問題を大事にして、基礎基本の定着と活用する力の習得をうまくバランスをとって取り組んでいます。
先ほど研究のお話ありましたが、そこに絡んで「アイテム」を使って自分の考えを伝え合ったり、発表したりという活用はされているんですか?
笠原先生
はい。教科書の問題でも、ちょっと子どもたちがつまずいているなと思うと、すぐグループ学習とかにするんですが、「アイテム」の場合もそうです。子どもたちももう慣れているので、終わった子同士ですぐお互いに見せ合って、答えが違うとここはああじゃないかこうじゃないかというふうな話をしていきます。どうしても収拾がつかないと、じゃあみんなで考えようかとなることもよくあります。
「アイテム」活用を通した子どもたちの変容
実際の成果の部分ですが、授業の改善ももちろんあるんでしょうけれども、「アイテム」活用による子どもの伸びという部分でどういう手応えを感じられていますか?
笠原先生
子どもたちが既習事項を使って解こうとする、筋道立てて考える力というのは伸びていると思いますね。それは先ほど言った学力状況調査の結果を見ても明確に表れています。
「アイテム」に取り組む前には、答えが分かれば途中はいいというような傾向がありましたけど、「アイテム」だとそれでは答えが出せない。解く手順なんかにも子どもたちの目が向いてきているなと思います。
他教科、または学力以外の部分ではどうでしょうか?
目黒校長
「アイテム」の取り組みによってのみ紐付けるわけではないですが、自然と子どもたちが話し合うっていうのが生まれて、深まりにつながっているように思います。研究においてかかわりを求めて、チームでやっている成果でもありますね。1人だと不安な子どもたちでも、やはりペアになって話し合うことによって、安心感というか、またそれぞれの楽しみとかというのも、教科にかかわらず出てくるんでしょうね。分からなかった子にとってみれば、それが1つのきっかけになるだろうし。
笠原先生
本当にそうですね。算数で言えば、これまでは単純に、計算問題ができることに喜びを見いだしていたんですけど、解き明かす楽しさ感じ取っている子どもが増えてきていますね。「アイテム」では、4ステップ目は「本当に(やらなくて)いいよ。(やるなら)自主的に。探究だからね。」と言いますが、やはり進んでやってきますね。そういう子が多いんです。6年間見てきて、6年目にして、ようやく子どもたちが自分たちで発見するとか、複雑なひとひねりある問題を頑張って解くとかいう楽しさを、子どもたちなりに味わっているんだろうなというのは、授業での様子や、こうやって取り組みを自主的に家庭でやってくる姿勢から見て取れますね。
算数のように軸になる教科があると、他教科にもいい影響が出るんじゃないですか?
笠原先生
はい。国語であれなんであれ、自分の考えを話してもらう際に、「自信のない子から考えを言いなさい」とか言うと、子どもたちも自分に自信がなくても話して、それに対して友達が「この続きはこうだよ」というかかわりが出てきています。学び合いと言い換えることもできますね。そうやって、正解を待つという姿勢じゃなくて、自分たちから自分の考えを言いながらつかみ取って学習を深めていく姿勢は、ほかの教科でも見られますしね。
算数は系統性が強い教科であるとよく言われますが、何を使えば解けるかというのがはっきりしているので、とても私たちもやりやすいです。例えば国語において物語を読むときなどに既習事項を活用する際でも、算数でやってきた学習の流れが子どもたちに身に付いていますので、自分の考えをグループで臆せず話したり、考えを出し合ったりという部分では、他教科にいい影響として波及している様子です。
教職員間で意識を共有する
他の先生方の反応はどうですか? ご意見ですとか。
笠原先生
先ほどもお話しましたが、いろいろあって一度「アイテム」を止めようとしました。でも先生方の中で話し合った結果としてここまで継続してきているので。
目黒校長
新たな認識になったね。いいきっかけになったね(笑)
笠原先生
そうですね。
目黒校長
しかしよく止めようって言ったね (笑)
あえておっしゃったんですか?
笠原先生
「アイテム」は確かにいいんだけど、基礎基本のところに目を向けるとちょっと足りないし、じゃあもう1冊教材を買うとなると、保護者負担にもなるのでという事で提案してみたんです。でも先生方は予想に反して、「アイテム」はぜひ継続をと。
導入当初にいらっしゃった先生はもうほとんどいないですよね。
笠原先生
私ともう一人くらいですかね。
公立の学校での先生の入れ替わりは避けられないところですが、新しく赴任してこられる先生方に対しては、どのようにコンセンサスを取っているんでしょうか?
笠原先生
年度当初の職員全員での研修会のときに、この「アイテム」を取り上げているんです。その中で「こういうふうに使いましょう」と。具体的には「とにかく練習、習得、活用のところまではやりましょう。だめでも習得のところまでやりましょうね」と。あとはそれぞれの取り組み例の紹介ですよね。
6年生であれば1年間終わるときには1冊全部終わるようにとか、低学年であれば書き込みにして、あとはプリントで補強とか。昨年度1年生を持っていた先生が、今年度1年生を受け持つ先生方に、「こんなふうに使うとうまく使えたよ」とか、先生方がどんどん意見出し合うようにしています。
そういういい使い方っていろいろ先生ごとにアイデアあるでしょうけど、普段ではなかなか共有できないですよね。
笠原先生
それを共有する場を設けるということです。私はあくまでも、このページまではやりましょう。習得、活用まではやりましょうという大枠しか出さないんですけども、ほかの先生方からいろいろアイデアが出ますし、やはり「アイテム」を見てB問題に対応できる力がつく問題があるというのは、認められた上でうまく使っていますね。
保護者の方々の反応は?
笠原先生
今はほとんど声が上がってこなくなりましたね。いい意味で「アイテム」を使うのが当たり前になってきています。子どもが自分でガリガリ進めていくような様子も見られているので、特別に「アイテム」に対してなんだという声は上がってきませんね。
家庭で先取りまでやってしまう子どもっていないですか?
笠原先生
たまにいます(笑) 予習的な学習もいいよと言ってあるので。
学力の定着、そして向上に向けて
最後の質問です。今後のことですね。研究は今年度でいったん終了とのことですが、それも含めて今後の課題をお聞かせください。
目黒校長
かかわり合いということを中心に取り組んできたけど、やはり最終的には一人一人の学力の定着。横のかかわりを大事にしながら、最終的に一人一人の学力をいかに高めてやるかという辺りを取り組んでいきたいと思います。これまでに作り上げたものをベースにしながら更に発展させていきたいです。
学力の定着といいますと、単元指導とは別に理解させた内容をしっかり演習する時間が必要になってきます。新学習指導要領になってボリュームも非常に増えている中で、その時間の確保はますます重要になっていると思います。かかわり合いを大事にする授業では、場合によって相当の時間を要する展開にもなるので、その兼ね合いをどのように考えるかは難しいですよね。
目黒校長
はい。かかわり合いによる自力解決も大事ですが、そこは課題です。
そのかかわり合いの時間を保証するために、ある部分をある程度効率化するとか、そういう工夫もされているんですか?
笠原先生
全ての授業をかかわり合いで通すわけではないんですが、新たな法則ですとか、決まりを発見する部分はこのかかわり合いを大事にします。そこで見つけた事をトレーニングする部分については、個別の時間にしたり、答え合わせのときだけペアでなったり、つまずいたとこはグループにしたりと、形態を工夫しながらやっていくという事ですよね。
校長が申し上げた通り、学力向上が最終的なゴールですので。その為に、今日はかかわり合いを、今日は個人のトレーニングをという形で、授業の形態は私たちがうまく工夫して進めるようにはしているつもりです。
そうなると先生方もいろいろ引き出しをもっていないと大変ですね(笑)
目黒校長
先生方は本当に一生懸命取り組んでくれています。それが何よりの研究の成果でしたね。
*この度の取材に快く応じていただきました目黒孝校長、研究主任である笠原崇先生をはじめ加茂市立加茂南小学校の先生方に心より御礼申し上げます。