日本教育新聞「企画特集」(2017年1月19日掲載)との本機構での連動取材第三弾は、広島県の府中町立府中北小学校(学校長 尾久葉則子)でのitem活用事例をお届けします。同校は、3年前から、学力向上を目指して大きな改革に取り組んでいます。授業改善では、指導力向上と教材の充実にポイントをおいて着手されています。新聞紙面では、掲載できなかった改革への想いをインタビュー記事にてお伝えしたいと思います。
学校改革とitem算数
アイテムを導入された経緯についてお聞かせください。
江草ゆかり教諭
3年前、本校に来た際、基礎学力の定着は言うまでもありませんが、活用力の向上も視野に入れて取り組む必要性を感じました。そこで、アイテムという良い教材があるので、これを学校全体で取り入れないかということになり導入しました。
保護者の方にも、基礎基本はもとより活用力をつけていきたいのでご了承くださいというお話をして同意をいただきました。
3年前ですが、学力的にはどうだったのでしょうか。
尾久葉則子校長
大変、厳しかったです。全国学力調査にしても、広島県が実施している基礎基本定着状況調査においても、平均を下回っていました。研修等で一人一人の指導力を高めていくという機会も足りなかったのではないかと思います。ですから、アイテムを導入すると同時に、授業研究のほうにも力を入れました。授業改善を同時に図りながら、アイテムの使い方をしっかりと揃えました。
江草
アイテムを導入するということで、時程も含め、3年前からすべてを変えたんです。
時程ですが、具体的にどのようにされたのですか。
江草
水曜日の5時間目を「アイテムの日」としました。普通、水曜日というのは、給食を食べた後、かんたん掃除をして、5時間目は、各クラスの教科をしていましたが、5時間目を全校でアイテムに取り組むことにしました。我々教員は、どうしても学力が低い子にばかりに目がいく傾向がありますが、アイテムは、そうした子どもたちばかりではなく、もっと頑張りたい子どもたちにも対応できます。できる子もどんどん自分たちでやっていけるような時間を確保したんです。
それは、思い切った転換でしたね。
校長
保護者にお便りを配布し、PTA総会でも説明をさせてもらったんです。『毎週水曜日、1時間のステップアップタイムを設けます』『その中では、アイテムという教材を使います』『基礎から応用まで分かれていて、応用もしっかりやりますよ』とお伝えしました。さらには、進みの遅い子どもたちのためには、『放課後チャレンジタイムを使っての個別指導、補充もします』『算数ノート、家庭学習等でも、しっかりと算数の力を付けていきます』と。学校では、こういう構えをしていますということを細かに保護者にお伝えし、全校で取り組んだわけです。
ちなみに放課後チャレンジタイムや、ノート指導、家庭学習の充実、この辺は、3年前にアイテムを導入したと同時に始めたことですか。
江草
併せて一緒にスタートしました。
校長
前校長の時となりますが、時程も含めシステムごとそっくり変えたという経緯があります。江草先生は、当時より教務主任として改革を推し進めてきました。
非常に厳しい子どもたちが多い地域です。家庭的にも難しい状況もあります。でも、本当はそれが当たり前だと思うんです。外で勉強ができるという環境があり、家庭教育力があるというところでは、その上に積み重ねるのが楽ですけれども、本校はそこのところが非常に厳しい状況ですから、その分学校で、しっかり補充していくっていうことになれば、これぐらい全部しないと難しいかと思います。
江草
そこまで手をかけることで、自信が持てた子の手が挙がりはじめます。進みの遅い子どもたちが『分かるようになった!』と手が挙がって、発表できるようになっていく。『できた!』という気持ちを、どの子にもしっかり付けたいと思っています。
アイテムも相当使い込んでいるという感じですが。
江草
1年間でアイテムの最後まで全部済ませます。
校長
保護者さんに教材費をご負担いただいているわけですから、いい形で使わないと。
アイテムを最初に導入した年ですが、子どもたちのアイテムに対しての反応はどのようでしたか。
江草
この学校に赴任した3年前、5年生を受け持っていました。最初は、ステップの2「確かなものにしよう」まではやろうねということにしました。ステップ3、4は、主には家庭学習でとしました。『分からなかったら、みんなで教え合ってやりましょうね』とも言いました。結構、子どもたちは面白がったんです。
全員っていうことは無理ですけれども、難しい問題にチャレンジすることが楽しいなっていうのは分かったようです。自分で解いていけるっていうのが楽しい。だから、分からなかったらすぐに『分からない』って言うのではなくて、『考えてここまで分かったんだけど、ここからが分からない』っていうのが言えるようになったのではないかと思います。
挑戦しようっていうのがいいようです。子どもたちは、そこで漸く面白さが分かるんだなと感じました。
校長
そこがまさに、主体的な学びですよね。授業にしても、こういうドリル系のものにしても良い課題に出会わせるっていうのは、とても大事なことかと思います。
アイテムの中から課題を探して授業に取り入れたり、それから、総合的な学習の時間と結び付けたようなパフォーマンス課題を自校で考えたりして、子どもたちがより算数科に意欲的に取り組むような研究を今年からスタートさせました。
パフォーマンス課題について
パフォーマンス課題について、詳しく教えていただけますでしょうか。
校長
いろいろ考え方がありますが、もともとは総合的な学習の時間等から始まったものでもあります。要するに、子どもたちが表現できるような課題っていうことですね。ただ単に計算ができたとか、いわゆる教科書にある文章題を解くのではなくて、同じ文章題でも、身近な生活に根ざしたもの、そして、表現を伴うような形での課題を、パフォーマンス課題と言ったりします。教科書にはない課題で、自分たちのものとして直接返ってくるような、そういう課題です。そして解き方にしても、いろんな組み合わせがあります。お金で考える、距離で考える、その双方を合わせて考えるとか、そういうような表現をパフォーマンス課題としています。
言ってみれば、合科というような感じですよね。要は、身についた知識を総動員して活用させるような感じでしょうか。
校長
そうです。だから、アイテムの教材もまさにそうです。ただ、もっとより自分たちの生活に密着したような課題を開発しようということで、今年度から研究を始めたところなんです。毎回、単元ごとにはできないので、学期に1回ずつぐらいは、そういうパフォーマンス課題を作って実践しようということで取り組んでいます。いろんな教科、領域を入れるということで、今まさに求められている大きな大単元のダイナミックな教材ですね。
基礎基本もしっかりとおさえながら、それを活用する力も付けていく必要がありますね。
校長
だから、同時進行で力を付けていくことが必要なんです。
先生方、一人ひとりのご理解も必要ですよね。
情報共有して授業力を高める
江草
学校が一丸となってやらなければならないということです。
私たちも研究部のほうで、ミニ研修という研修をしていくわけです。全員参加で、毎週の火曜日30分、4時過ぎから研修を始めます。事前に計画を立てて提示しておきます。今は、「ペアトーク」と「グループトーク」をテーマにミニ研修をしています。これを実践する意義を先生たちも分かってもらわないといけないので、実際に先生たちに、本当にそれが有効で考えが深まるものであるということを実体験していただいています。あとは模擬授業をしたりして、いろいろ意見を出し合いながらみんなで授業を作っていくわけです。自分がやらないと分からない人っていますよね。どこかで実感をもった体験も必要ですしね。
校長
教員全員、情報共有することは大切です。『3年生ではここで困っている』『2年生ではこうしとこうね』『じゃあそのやり方を、今から他の学年も使ってみましょう』と話し合って、良いものは全員で共有します。
よくどの学校も、校内研というのを、1月に1回だったり、2カ月に1回行ったり、講師の先生に来ていただいて授業研を行いますが、間隔が空いてしまったりすると、意識が希薄になり、結局、全然自分のものになっていかないといことが多いのではないでしょうか。だからこうやって、毎週、現場の生の声を聞きながら、『じゃあ、今どのようにやっているか、皆でちょっと話し合いましょう』と、先生たちもグループトークしたりして、『そこのところそろってないですね。じゃあここからは線の引き方こうですよ』と、揃えていくわけですね。単純なことですけれどもこれが大切なことのように思います。
『あれが気になるわ』って一言言えば、それをすぐ次のミニ研修では処方してくれるわけです。管理職に上から『あれを直したほうがいいよ』って言われるより、みんなの中で答えを探し出すほうが気持ちいいじゃないですか。授業に対する意識も揃えられますし。
授業の見方みたいなのも変わってくるのでしょうね。
江草
多分、分からないとそのまま過ぎてしまうことも多いのだと思います。
子どもたちを伸ばすのが学校の役割
今多くの課題を丁寧に熟されていくなかで結果も出されています。学校として大切にすべきものとは何でしょうか。
校長
アイテムを活用する中で、基礎基本定着状況調査の結果だとか、全国学力・学習状況調査の結果を見れば、県平均も町平均も超えてきたっていう辺りで、一定の成果が見られたというところです。学力については、町内でも低くて、県平均も届き難かったところが、一応クリアできたということを思えば、成果は上がったと捉えることができます。ですから、このアイテムのような教材をもとに、しっかりした活用を継続して、当たり前のようにできるっていうところは目指してくべきと考えています。
パフォーマンス課題ですが、3ヶ年は継続的に研究を深めて、最後はその仕上げみたいな形にして、子どもたちの変容が見て取れるようにしたいとは考えています。パフォーマンス課題もそれでずっと行けるかと言ったら、そこはちょっと難しいと思います。そこにかけるエネルギーっていうものは半端なものではありません。ずっと持続できるものでもないですので。
もう一つ本校でベースにしていきたいのは、人権教育です。ピア・サポート活動を中心に、やはり自己肯定感を高める、将来の夢を持つというのは大切なことと思います。互いを大切にするというベースを、やはり大事にしながら、心を育てながらいかないといけません。そういうベースは今後も残していきたいところです。当然それは、どの学校さんも、そこをおろそかにして教育はできませんから。特に本校では、そこを意識した取り組みを継続していかないと、子どもたちの心はすぐ荒んでしまったり、自信がなくなってしまったりと、逆に戻っていくかなというのは思っています。
ちなみに、地域事情っていろいろあると思うんですけど、そこら辺って例えば、3、4年前と比べ変化しているのでしょうか。
校長
全く変わりません。
だからこそ、みんなが一致団結をして、みんなが心をそろえて、進めていかないといけないんです。
本校はこういう事情だから厳しいと言ってお終いになっていまっている学校さんも多いように思いますが。
校長
それを言ったら、教育は絶対に駄目だと思います。子どもはどこでも一緒ですから。伸ばすのが学校の仕事。家庭の教育力がなかったら、その子は伸ばさなくてもいいのかといことでは済みません。ないからこそ、伸ばしてあげないと。子どもは将来困るわけですから。
この数年間の歩みっていうのは激動だったんですね。
江草
大きく変わりました。学校が変わりました。
校長
もちろん、強力なリーダー性のある先生がずっといらっしゃるわけではないので、質的には、上がったり下がったりになるかもしれませんが、みんなでやるというところは、大事にしていきたいなと思います。職員みんなが育つというのが一番大事ですから。
江草
授業が勝負です。
本日は、貴重なお話をいただき本当にありがとうございました。