関市立南ヶ丘小学校様は、平成26年度より3ヵ年、関市より「課題研究指定校」を受け、生活科・総合的な学習の時間を主題研究として取り組まれていました。その研究を通しての教師と児童の変容は大きかったそうです。何が変わったのか、またアイテムとの関連性、有効的な活用法について伺いました。
総合的な学習の時間をとおして
酒井田校長
私は本校へ来て2年目ですが、本校では生活科・総合的な学習の時間の研究を3年間取り組みました。今年も継続して4年目となります。総合的な学習の時間で培った「思考ツール」(様々な意見を整理したり新しい考えを出したりする際に活用する手法の総称。添付資料をご参照下さい。)を、例えば国語の授業で使う教師もいますし、学活のときに使う教師もいます。昨年卒業した6年生は、自分たちが学活で話し合うときにも「先生、この『思考ツール』使えるよ」と提案してくることもありました。「思考ツール」は学級会でも色々な教科でも取り入れています。
遠藤先生
私も昨年度本校へ異動してきました。どの教科でも、私の発問に対する子どもの反応、答え方が前任校と全く違い驚きました。一斉にパッと反応が返ってきます。どの教科でも同じように、子どもたちは「考えることが楽しい」と感じているように見えましたね。学年にもよりますが、6年生は顕著です。これは総合的な学習の時間で意欲を大切にしてきたことの成果だと思います。
総合的な学習の時間では、自分の考えを「思考ツール」を使ってたくさん書きます。本校では「思考ツール」をはさんで使うホワイトボードをよく使います。ここにグループみんなの考えを書いて発表したり、自分の考えをふせん紙に書いてみんなで貼ったりもしますね。このボードが自分を認めてもらう手段になる、と子どもは分かっています。今は理科や社会でも使いますし、子どもから「使ってもいいですか?」と聞いてきますね。
子どもたちに「考えなくちゃいけない」という義務感はなく、純粋に「考えることが楽しい」。そういう感じを受けました。自分の考えを発表することで自信が持てたり、誰かに認めてもらえたり。「友達と違うことを自分は気が付いたぞ!」と誇らしい気持ちになれたり。授業の最後には振り返りをノートに書きますが、それも喜んで書きます。授業で分からなかったことがあっても、書く時間が足りなくても。書くことも好きみたいです。子どもの中に「書く」ことへの抵抗感はないですね。
確かに、今日の3時間目(総合的な学習の時間)の子どもたちがまさにそんな感じでした。友達の意見をきいて、自分の発言をどんどん作り変えていきましたね。
遠藤先生
今日の総合的な学習の時間の授業は子どもたち主導で、友達のやり方・考え方を取り入れ、自分の考えを深めていきました。事前に家で調べてきた子もいました。高学年はもう、自分たちで授業が進められるようになっています。その年によって差はありますが。教師には、授業に対してのプロデュース力が求められますね。
酒井田校長
遠藤先生は教務主任ですが、今は学力を蓄えなくてはいけない学年の算数少人数指導を担当してもらっています。今年は3年生に力を入れています。その前は6年生の少人数指導を担当していましたが、結果が出てきました。以前と比較すると飛躍的に学力が伸びましたね。算数では特に、原理原則を押える事がポイントだと思います。この単元のポイント、原理原則をしっかり教えて理解していく事を続けた結果だと思います。
遠藤先生
子どもたちは総合的な学習の時間のおかげで、教科でも自分の考えをよく発言します。子どもの発言を教師が少し整理整頓して方向付けをしてあげると、だいぶ考え方としてまとまってきます。最後は「できた!」になるのですね。「それは教科書に載っているのと同じ考え方だね!すごいね!」とこちらが言うと「えっ?本当だ!」となり、子どもの自信に繋がります。そのような体験を積み重ねていきます。考えることが好きになると、必然的に学力は伸びていきます。
今までは、発言をしてもなかなか周りから認められないという意識が子どもの中にあったと思います。しかし、ちゃんと方向付けをし、順序立てて話すことで自分の考えは生きるのだ、と分かってきたのでしょう。子どもたちの考え方が完璧でなくても、「なるほど。こういう事かな?」と上手く繋げて返します。すると別の子がそれについて意見を言います。大切なのは、子どもの発言を否定しない事ですね。今では自信をもって発言するようになりました。子どもたちはもともと書くことは好きだったので、自分の考えを文章で表すことはできます。それこそ書くこと、表現することは、総合的な学習の時間で馴れていましたから。
酒井田校長
子どもたちから出た意見を、「いいね!すごいね!」と教師は褒めます。本当に、子どもの発想力は凄いと感じることもありますので。すると子どもたちは、「自分たちでやれるかもしれない。」「この難解な問題も解けるかもしれない。」と思うのですね。そういう気持ちにさせること、自信を持たせることがポイントだと感じています。
アイテムとのかかわり ~子どもの自信に繋げるツールとして~
総合的な学習の時間を研究されていく中で、アイテム算数を導入されたきっかけをお教えください。
遠藤先生
関市内の前任校で、アイテム算数の見本を取寄せて検討していました。同県の他校の先生から「いい教材があるよ」と聞いた事がきっかけです。本校へ異動して来たら、こちらにも見本がありました。内容を見たら面白い問題が多かったので、先生方に「この教材、どう?」と聞いてみたら、先生方も「いいんじゃないですか」とおっしゃいました。最初は「本当にいいの?」という驚きの気持ちもあったのですが、計算ドリルをやめて、2年生以上はアイテムを導入しました。次年度は1年生も使いたいぐらいです。最初は「大丈夫かな?」と心配もありましたが、今考えると、1年生も夏休みくらいから取り組めば大丈夫でしたね。
活用場面としては、授業が中心ですか?
遠藤先生
そうですね。大体授業の終盤、教科書の問題をやった後に「アイテムやるよ。」と言っています。6年生には特に発展的な問題をやらせたかったので。自分から「先生、これやる」と取り掛かる子もいました。「分からんなあ、この問題。」とある子が言っていたら、クラスの子が5、6人集まってきて「ああでもない、こうでもない。」と言いながらも考えます。そして解けた時は、「おぉ~解けた~!」と喜んでいましたね。難しい問題も少し頑張ってトライして、分からなかったらみんなで相談すれば解ける、と体感したのですね。そのようにクラスが変わってきた事は本当に嬉しいです。すぐに駄目だと思わない、諦めない気持ちが育ってきています。考えることが好きになって、自分も解けると自信を持ったら、子どもは本当に変わります。そんな姿をみると、私も思わず嬉しくなりますね。そして今の6年生は、テストの結果にも表れるようになりました。5年生のときは学力にとても差があったのですが、その時と比べたら目覚ましいほどの伸びです。下位層の子どもの学力が本当に上がってきました。
自分の考えが誰かに認められること、これが自信に繋がるんですね。自分の考えは間違えてなかった、という体験です。もし間違えても、「惜しい!」と言うとまたすぐに考え始めます。解ける自信があるからです。
酒井田校長
子どもたちが自信を付ける場面を作り、その場面を重ねていく。これが何よりも大切ですね。
少人数指導と一斉授業と
今日は3年生の少人数指導を見させていただきました。先生が根気強く子どもに寄り添った授業をされているのが印象的でした。
遠藤先生
「あまりのある割り算」は、難しい単元です。しかも掛け算がまだ完璧ではない状態の子がいましたから…。でもその子も、九九表を見ながら頑張っていましたね。時間はかかるけど一生懸命考えて、諦めていなかったですから。
少しずつ鍛えていかないと、と思います。
少人数指導を行っているのは3年生の算数だけですか。
酒井田校長
本校は教務主任であり算数が専門の遠藤のみが担任を持っていないので、算数の少人数指導に入っています。加配人員の確保もなかなか難しいのが現状です。
3年生はもともと人数が多くない学年ですが、学力差が大きくて一斉授業は厳しい状態でした。少人数指導にすることでこの子たちの学力を引き上げなければ、と感じ、教師が寄り添い、教師も子どもも諦めずに取り組んでいます。
遠藤先生
少人数指導ですとこちらの目が届くようになるので、子どもは参加せざるを得ない状況になります。授業中にぼーっとしている暇がない。こちらからもどんどん当てるし、子どもたちから「できたよ。」とアピールもしてきます。一斉授業の時よりもぐっと距離が近くなり、関わり方が濃くなります。大きい集団では持てない関わり合いが少人数指導では可能になります。
アイテムは、授業以外で使われることもありますか?
遠藤先生
朝学習でやる子もいますし自主的に家庭学習でやってくる子もいますが、あまり強制的にやらせている訳ではありません。下段の計算ドリルは、担任の先生が宿題としてきっちり出しています。
アイテム算数に取り組むようになって、子どもの問題に向かう力が強くなったと思いますね。(全国学力・学習状況調査の)B問題のような問いに対する抵抗感も低くなりました。長い文章問題も読もうとしてますし、抵抗感は軽減されたかなあと思います。
加えて、アイテムには面白い問題がたくさんありますよね。「授業でわかる」や「スペシャルアイテム」は、子どもが自主的に喜んでやっています。「できない~」と言いながらも、友達と相談しながら頑張っていましたね。算数的に興味を引き付けるようないい問題があるので、それがありがたいなと思います。子どもを見ながら、敢えてこの問題はやらなくてもいいよ、という時もありますけどね。
酒井田校長
かなり先に進んで、チャレンジの問題までやる子もいますからね。
遠藤先生
6年生のアイテムには、中学校の数学に触れるような問題もあります。その時は「こんな問題は中学校でも見たことあるな~」と言うと、ますます張り切ってやるんですよね。6年生にもなると、何とか解いてみたいと思うようです。じっくりコースですけど、やるんです。少しヒントを与えてあげると、「あっ!」と言って気が付いて「解けたよ!」と喜ぶんですね。私ももう適わないところもあるくらいです。「全部これ解ける子、いないんじゃないか~」と子どもの横で言うんですけど、詰まっては立ち止まり、相談しながら考えていきますね。何回も紙に書いては消して…。それを繰り返して、最後には答えに辿り着く感じです。
次期学習指導要領では、小中連携を意識して系統性を考えた学習内容の見直しを行うとも言われていますね。
遠藤先生
線対称の問題で、対称軸が斜めの問題。(6年「対称な形」P39「チャレンジしよう」)あの問題は本当に困りましたね。対称軸が縦に真っすぐなら簡単にできますが、斜めだからできない。対称軸に対して直角に線をひく、という点がポイントなんですが、苦しみながらやっていました。ああだこうだと言いながらも、最後は解いていました。あの問題はよかった。「対称」の原理原則が意識できる問題ですね。対称軸が斜めでも、その軸に対して垂直に線を引き、そこから同じ長さを取れば対称点が取れるんだという事がはっきり分かります。対称軸が縦にまっすぐだと、何となく出来てしまう子がいます。基本の原理を理解できる問題だからありがたいです。アイテムで鍛えられていますね。
活用的な問題をじっくりコースでもやりますよね。
遠藤先生
どんどんコースもじっくりコースも、チャレンジする気持ちや姿勢はあまり変わらない気がしますね。どんどんコースの子は基本的に自分で解くし、じっくりコースの子も分からなかったら友達と相談しながら解いていきますからね。どんどんコースもじっくりコースも、相談しても分からなかったら先生に声掛けて、と言っています。その時はヒントを出します。子どもたちには「解き方が分かっても答えは言うなよ~」と言っています。
酒井田校長
そこは遠藤先生ならではの導き方だと思います。子どもに「やってみよう!」とまず意欲を持たせ、「こう考えたらいいんじゃない?」「いいね、そうそう!」というようにもっていきますからね。子どもに原理原則を思い出させながら導いていきますよね。子どもたちも段々と気付いていきます。この解き方(公式)を使えばできるんだと。すると「そうだ直角だった。こういうこと分かれば簡単じゃないか。」と気づき、「次の問題もやってみたい。」と繋がります。岐阜県は、授業の中で原理原則をしっかり押さえることを学力向上の手立てとしても出しています。勿論、原理原則を押えていれば、基礎基本の問題も解けるわけですから。
遠藤先生
本校はB問題の伸びが国語も算数も高かったです。原理原則を押えられていれば、A問題はさほど心配しておりません。B問題が伸びれば、絶対A問題は伸びますから。A問題が伸びてもB問題が伸びるとは限らないので、これはとてもいいパターンですね。
保護者の方の反応はいかがですか?
酒井田校長
保護者の方からも、アイテムは評価いただいています。「計算ドリルを3回やることに効果があるのでしょうか?」と疑問の声も保護者から出たことがありましたから。結果としても現れていますし、ドリルより色々な問題があることは一目瞭然です。どの学年からも、「どうしてアイテムなんですか?」という声は聞こえていませんね。
これからは、どの子にも活用的な問題をやらせざるを得なくなる。この点をどのようにやるかが、どこの学校でも課題ですね。チャレンジ精神やできる喜びを導くにはどの様なことが必要なのでしょう。
酒井田校長
本校では少人数指導がポイントだと思っています。少人数だから自分の意見が出せる、ここが分からないと言える。これが40人だと、どうしても「他の子に説明して貰えばいいかな」「自分は黙っていてもいいかな」と、授業の中で「お客さん」になってしまいます。しかし、少人数指導の中ではそうはいきません。全員参加です。ひとりではできなかったけれど、5人で考えればできた!という経験をすることは大事です。
最終的には、学級経営によるものだと思います。学級がひとつの「学習集団」になっていないと集中力は付きません。今の6年生の学力が、算数や国語だけでなく他の教科も含めてこれだけ伸びたのは、学級経営が安定しているからです。みんなが安心して勉強できる集団になったことが、一番大きいと思います。子どもがのびのびと意見を交流できる学習集団をつくる。そのための学級づくりが一番だと思います。「こんなことも分からないの?」という態度を示したり言葉を発する子が1人でもいたら、もう自分の意見は言わなくなりますから。分からないことを「ここが分からない」と言える学級づくりが必要ですね。
遠藤先生
分からないことを言えるのも、総合的な学習の時間のベースがあるからですね。それぞれの子の中に考える姿勢ができているし、間違った事を言っても大丈夫、という安心感がある。本当にそう思います。少人数指導で鍛えたら、一斉授業に戻せますから。ずっと少人数指導をしなくてもいいわけです。
「思考ツール」の使い方
酒井田校長
総合的な学習の時間では、付箋に自分の考えを15枚も20枚も書きます。普通は「自分のノートに考えを書きなさい。」と言いますよね。そうではなく、付箋にどんどん書くことで、自分の考えをこんなに持てたという自信に繋がります。もう自分の考えを書くことに抵抗がないのではないか、と思います。本校では頻繁に「思考ツール」を使いますが、子どもたちは「思考ツール」を使うことで、仲間と自分の考えを可視化することがこんなに分かりやすく、また自分たちの考えがまとめやすく比べやすくなるという事が解かっています。だから、思考ツールを使うと楽しめるのです。考えを可視化する点で、「思考ツール」は有効ですね。
遠藤先生
(総合的な学習の時間の研究を始めた)初期の頃は、先生も子どもも試行錯誤の連続で大変だったと思います。4年間継続して行っていく中で、自分の考えが書けるようになり、それを認められる環境ができ、交流する楽しみも分かってきたのですね。友達から新しい情報を貰うことも面白くなり、自分がより深く調べてくれば、みんながびっくりすることを言えて面白くなる。子どもの中の変化として、考えることが楽しくなったことが一番大きいと思うんですね。
その結果が全国学力・学習状況調査にも反映されてきていますよね。
酒井田校長
そうですね。算数Bの問題が解けるようになりました。あの問題の文章を最後まで読むのだけでも大変ですからね。
このような結果を聞くと、他の学校は「何をやったらこうなるんだろう」と思いますね。
遠藤先生
市内の小学校から、算数についての問い合わせはありました。私はずっといろんな場所で言い続けているんですけどね。総合的な学習の時間はいいよって。算数の力付けるなら総合的な学習の時間だよってね。算数の研究よりも、総合的な学習の時間の研究だよ!と言うんですけどね。みなさん、なかなかぴんとはこないようですね。
酒井田校長
考えることが好きになったのは、総合的な学習の時間の中で(「思考ツール」を)使い始めた事が大きいです。まずは自分の考えを持つこと、友達の考えを認めること、自分で調べて深めていくこと。総合的な学習の時間は、その経験の積み重ねですね。「思考ツール」をいきなり教科の中で使うのは、少し大変かもしれません。
「思考ツール」については文部科学省が次期学習要領の中で触れていますので、継続して行っていこうと思います。本校では1年生でも「思考ツール」を使っていますが、付箋にサインペンで5文字書けるかどうかです。自分の考えを短く、キーワードを使って書くということは大事です。要するに何を言いたいのか、伝えたいのかを端的にまとめる力をつけることになります。昨年からはその点に気を付けています。「思考ツール」は、ただ使えばいいのではなく、何のために使うかによって書き方が違ってきますね。本校での使い方は、意見を交流するために使うことが多いです。キーワードは書いて、補足や説明は自分で話す、というやり方です。
遠藤先生
キーワードだと友達との擦り合わせもしやすいです。同じ意見なのか違うのかが分かりやすいです。
酒井田校長
本校へ来て、総合的な学習の時間の研究と聞いて驚きもありました。でも、今では納得しています。子どもたちが元気に総合的な学習の時間の授業を行っていますから。本校の職員は、総合的な学習の時間をやる意味をしっかりと理解して行っています。子どもたちがいきいきとしゃべり、友達と交流する。地域のこと、地元のことを子どもが大好きになっていくことを職員が分かっているので、職員も総合的な学習の時間をどうしようか、と考えることは楽しいようです。職員室の中で、「こういうゲストティーチャーいないかな。」と交流し、先生が主体的に総合的な学習の時間のことを考えるから、子どもも楽しくできるのでしょう。考える力を伸ばす機会としては、総合的な学習の時間はぴったりだと思います。
遠藤先生
中学校へいっても、今のように自分で課題を見つけて探究していくようになってほしいなと思います。
今日はありがとうございました。
School Data
〒501-3936
岐阜県関市倉知4372番地
児童数:102人
①総合的な学習の時間では自分の考えをたくさん書く
②「思考ツール」を使い、考えることが自然と楽しくなる環境へ
③算数少人数指導では諦めず、やってみようと思う姿勢を育む
④一人ではできなくても、友達と考えたら出来たという経験を大切に