大阪府南部に位置する河内長野市。市の中心に位置する河内長野市立長野小学校を取材しました。 河内長野市立長野小学校は、平成20年から22年度文部科学省・学力向上実践研究推進事業、河内長野市教育委員会委嘱・研究学校に指定されている学校です。2年前より「アイテム」算数をご導入いただいておりますが、PISA型学力を重視した指導に注力された研究をすすめられています。11月26日(金)の研究発表会では、研究授業とともにその成果が発表されました。研究発表会の資料と、事前にお話いただいたインタビュー(2010年10月25日)をご紹介します。
研究テーマ『生活を深める、豊かな学力の育成』
~PISA型学力を重視した授業づくり~ について
日本教育新聞 西山氏
よろしくお願い致します。まず、貴校は平成20年度より文部科学省・学力向上実践研究推進事業校に指定され、今年(平成22年)が最終年度になりますが、どのような点に目標や重点を置いて研究を進めていらしたのでしょうか。まずは、学校での算数指導のあり方、趣旨等についてお聞かせ下さい。
東尾先生
『生活を深める、豊かな学力の育成 ~PISA型学力を重視した授業つくり~ 』ということで3年前からこのテーマで取り組んできています。副題も基本的には変わっていません。3年前までは、学力の拠点事業として「基礎・基本」をずっと積み重ねてきました。しかしそれだけでは足りないだろうということで、「活用」を意識しはじめ、「本当の学力とはなんだろう」ということころからPISA型の学力について考えてみよう、ということになり、3年前からこの研究がスタートしました。1年目は「PISA型とはなんだろう」というところからまず始まりました。外部から専門の先生方にもたくさん来ていただいて教えていただきました。2年目は、国語科と算数科で研究に取り組んでいましたので、この二つの教科の土台になるものはなんだろう、と考えました。その時課題として見えてきたのが「活用力」でした。国語では「読解活用力」、算数では「活用力」です。既習事項の活用だけでなく、学んで得たものを、自分たちの生活や学びに活用していけるような力をつけたい、ということをテーマにして研究を進めていきました。その中で明らかになってきたのは、学習のプロセスが大事なのではないか、ということです。具体的には「情報を受け取る」「情報を取り出す」「情報と関わる」「情報をもとに発信する」という流れの中で、もう少しプロセスを大事にする授業を行っていこう、ということが3年目のテーマになりました。それが今日までの経緯です。
プロセスを意識した指導をする
西山氏
「プロセスを大事にする」という点で、具体的に学習面ではどのような取り組みを行っているのですか。
東尾先生
算数では、ある問題場面の中で、子どもたちが「今は情報を受け取る場面なんだ」ということ、先生たちも「今、子どもたちに情報を発信しているんだ」と意識をするようになりました。情報に関わっている場面では、「今まさに情報に関わっているんだ」と。今まではこういうことをひとつずつ意識的に行うことはしていませんでしたが、「今は既習事項を活用しているんだ」と意識を持ちながら授業作りを行うようにしています。
藤野先生
東尾先生がお話しされたとおり、6年生でも、日々の授業がとても大事だと感じています。今日勉強することは、昨日学習したことが活かせないだろうか、実は去年勉強した事の続きだったんだね、というようなことを子どもたちの方から発見できたらいいな、と思いながら授業作りを行っています。
芝先生
4年生も同じように、課題が出てきたときに、「今までの既習内容が使えないだろうか」ということを子どもたちに必ず問いかけるようにしています。教師側も意識はしてはいますが、子どもたちが、プロセスを意識して進められるような授業作りを心がけています。
西山氏
実際に子どもたちの反応はどうですか?
既習事項と関連付ける様子などプロセスを意識する姿は見られますか?
東尾先生
授業中に子どもたちがノートをめくって、前を振り返っている姿はよく見られます。前に習っているのではないか、似ている問題があるのではないかと探す子どもは多くて、見つけると「▲月▲日に同じことを習ってるよ!」と声があがります。その声を受けてまわりの子もノートをめくって振り返りますね。
芝先生
例えば新しい学習に入るときは、前日の授業で習った事を使う場面が多いので、前の授業と比べてどこが難しいのかな、違っているところはどこなのかな、と子どもたちに発問することで、課題がどこにあるのかを考えさせたりします。
藤野先生
私は本校に赴任して5年目になりますが、5年前はまだ基礎・基本に重きが置かれていていました。朝学習にほぼ毎日「計算タイム」があって、毎朝基礎・基本の計算練習をやっていました。PISA型学力に取り組むようになったのは、赴任して3年目からです。数年前から継続して、「はなまるタイム」という給食指導の前に授業の中から抽出して指導を行うようなこともされていました。基礎・基本の定着も行いつつ、発展問題や考える問題に取り組むという試みはしていました。
東尾先生
週1日、本校は児童朝会があります。残り4日のうち、朝学習の時間、半分(2日間)を「読書の時間」、残り半分(2日間)を「計算タイム」として使っています。「計算タイム」で使うプリントは本校HPにも掲載されてありますが、単なる計算問題だけではありません。プリントの裏側にグラフの読み取りのような活用問題を入れてみたり、「さかのぼり」といって前の学習が必要であればそのような問題も入れています。また、次に学習する単元のさわりの部分の練習問題を入れたりといった工夫は、この研究が始まってから新たに加わってきていますね。
10年先に活かせる力をつける
西山氏
校長先生から見てどのようにお感じですか。
学校長
子どもたちが、積極的に授業に関わろうとしている姿はよく見受けられますね。子どもたちはこれから先、何十年と生きていくわけです。生きていくためにはそれなりの力をつけなくてはいけない。今までは、どちらかといえば「知識の注入」「技術の習得」が、基礎・基本のもとに、重点項目とされてきました。それらの知識を、人生の中でどのように活かしていくか、それこそがこれから生きていく中で必要な力であろうと思います。その点は、本校の全職員が共通認識のもとで研究をすすめておりますし、実際に授業の中で実践しています。先生がひとつ問題を作る上でも、子どもの生活に密着した問題を作る工夫をしています。また、子どもたちが意欲的に活用できる、というところに視点を当てた授業を行っている、これが本校の素晴らしくて凄いところだと自負しています。
その点においては、やはり成果、結果として出てきています。勿論、子どもたちの10年、20年先にも大きく影響してくると思いますが、現在でも全国学力調査テストの活用問題に対する正答率がとてもいいんです。いわゆる国語、算数のB問題ですね。A問題も(平均点よりも)「よい」に入るのですが、B問題は「とってもよい」に入ります。その点だけを見ましても、活用問題に対する力がついていると、私は思います。それが本校の研究の成果であると認識していますね。授業や指導の中で研究の成果がどう活きているかは、これからお話しする中で出てくると思いますが。「アイテム」算数に関してもしかりです。でも現場からひとつお伝えしたいのは、私たちは(テストの)点数を上げるための授業をしているわけではないということです。10年、20年先に活かすことが出来る力を、今どうやって子どもたちにつけてあげるか。そのために研究をし、検証しているということです。学校を束ねるものとしては、その点ははずしたくないです。
基礎・基本に力を入れ始めた7,8年前は、実際のところは「中学に上がるまでに、最低ここまでの学力は付けてきてほしい」という要望が中学側から上がって、どうにかしようと始まったんですね。でもそのうちに「基礎学力だけでいいの」となって「活用する力」に至ったわけです。現在ではもっと広く「PISA型学力」と捉えるように変わってきていますが。
算数少人数指導について
西山氏
ひと学年5クラスという大規模の学校でいらっしゃいますが、少人数指導の方法はどのようにおこなわれているのですか。
芝先生
本校の少人数指導は4年生からですが、ひとクラス約40名。1学期は単純二分割、20名の2グループで進めました。2学期からは習熟度別授業を取り入れ、時間をたっぷり掛けながら考えていく「じっくりコース」、いろいろな考え方を交流させながら進めていく「がっちりコース」と二つに分けました。「じっくりコース」が全体の3分の1、残りの3分の2が「がっちりコース」で現在進めています。
東尾先生
5年生は4年で少人数を経験してきているので、単元によって単純二分割の時もありますし、習熟度で分けるとこもあります。なるべく同じ人数になるようにしますが、基本的には子どもの意思に沿うようにしてあげたいと思って分けています。習熟度で分けるとしても、(同じ授業時間内で)最初はT.Tにして全体で進めて、その後2つのグループに分け、最後にまた合体してひとつに戻すこともあります。最初から二分割して授業を行う事もありますが。
藤野先生
6年生も5年生と一緒で、4年生の時から(少人数を)経験しているので、単元によって単純二分割の時もあります。でも今は、ほぼ習熟度別で進めています。割合で言えば「がっちりコース」が3分の2の20名弱、「じっくりコース」が3分の1の12,3名。東尾先生と同様で、子どもの意思に添えるようにと考えています。子どもたちがコース選びをする前に、「レディネステスト」というものを行うのですが、その結果と実際に授業を受けてみてどちらのコースにするかを子どもたちが判断をするようにしています。子どもが最初「じっくりコース」を選択したとしても、「やっぱり『がっちりコース』で頑張ってみたい!」と思えば、必ず先生と相談するというルールはありますが、一度選んだからずっと変更できないということはありません。子どもに「もっと頑張りたい」という意欲があれば変更可能です。勿論その逆もあって、「がっちり」から「じっくり」への変更することも出来ます。子どもたちもコース選びに慣れてきているので、自分にあったコースの選択が出来るようになっていると思います。
アイテムの活用方法について 導入の経緯
西山氏
次に、アイテムの具体的な活用方法について伺います。まず導入に至る経緯についてお聞かせ下さい。
東尾先生
私が赴任をする前の話になりますが、以前は基礎・基本のドリルを使用していました。しかしドリルだけでは、文科省の全国学力調査テスト、大阪府の学力テストに太刀打ち出来ません。何よりも、テストに出題されるような問題に子どもたちが慣れていない、ということが大きな要因としてありました。そこで、ドリルに替わるものが何かないかなと、探したところ「アイテム」算数が浮上してきたんです。早速学校で見本を取り寄せて内容の検討に入りました。1年から6年生まで対象として使えるものなのか、導入した場合実際に使っていけるのだろうかの議論が校内でありました。
藤野先生
「アイテム」をぱっと開いてみてまず感じることは、問題量の多さですね。特に前の版(2009年度版)はもっと字も小さくて、問題もぎっしり詰まっているというイメージがありました。現在のものは、使い勝手から言えば改善されたかなと思います。
導入当時は、「わぁ~大変!全部出来るかな」というのが第一印象としてありました。今までのドリルとは全然違うけれども、「アイテム」にあるような問題は(子どもに)やらせてみたいと思っていました。ドリルでは当たることの出来ない問題があるのがあるので、一度やらせてみてもいいのではないかな、と思いました。実際、ドリルだけでは問題が足りなく、こちらで補充するためにプリントを作っている状態でしたし、じっくり考えないと解けない問題が「アイテム」にはありましたので、きっとやりたい子はどんどんとやるだろうな、というのが「アイテム」を見たときの素直な感想でした。
東尾先生
「アイテム」には単元ごとに活用や探究する問題がありますが、同じような問題を自分たちでつくるとなるとなかなか難しいし、これだけ多くの数に当たらせるというのは厳しいものがあります。(算数に)興味のある子は、こういう(活用する)問題をやりたいと思います。「アイテム」にこういう問題があるのを見てしまうと、迷いもありましたが、今年も4,5,6年で継続して使用することになりました。
活用場面について
西山氏
活用の場面としてはどのような場面が多いのでしょうか。
藤野先生
4年生は、基本的に授業の最後に練習問題としてやるのが一番多いです。宿題としてやることは殆どないのですが、難しい問題もあるので、事前に練習させるために宿題プリントの中に「アイテム」と似たような問題、例えば数字を少し変えたり登場人物を変えたりしてやらせることはあります。そして授業の中でもう一度「アイテム」でやって、直接書き込ませるというやり方をやっています。結果的に「アイテム」の問題を2回やっていることになりますね。いきなり「アイテム」を授業の中でやったこともありましたが、子どもたちはすぐ「分からない~」「難しい~」というんです。それは教科書にない問題などもあるからなんですが、実際にやってみると「分かった!」「できた!」となるんですね。でも本当に分かっているのかな、理解しているのかな、と思う時もありました。確認のためにも2回やらせてあげたらいいなと思うので、問題を少し工夫してプリントと「アイテム」とでくり返しやらせるようにしています。それ以外には、夏休みや冬休みの宿題としても、「アイテム」の欄外にある計算ドリルは、1冊専用の「アイテム」ノートをつくって活用しています。
4つのステップの進め方
西山氏
アイテムにはステップが4段階ありますが、どのように進められていますか?
芝先生
出来れば「活用する力をつけよう」までは終わらせたいと、学年(4年生)の中ではいっているのです。でも(習熟でいうと)どうしても「たしかな力をつけよう」までが限界かなという子も実際はいます。「がっちりコース」を選択している子はもう「チャレンジしよう」まで進んでいく子もたくさんいますね。ですから、個々に応じてすすめています。必ず終わるようにしているのは、習得の段階(「たしかな力をつけよう」)です。
東尾先生
5年生も、「活用する力をつけよう」までは全員やりたいと思ってすすめています。ただ、「探究」(「チャレンジしよう」)の中で『(数の)きまり』や『法則』に触れているところ、例えば「アイテム」5年生27pの2-資料①- などは、「じっくりコース」の子も「がっちりコース」の子も一緒にやるようにしています。「アイテム」5年生、27pの3の問題 は、普通に面積から横の長さを求める問題ですが、問題文の「一つの式に書いて求めなさい」の意味が分からない子がいるだろうなと思うんです。そういう時は、その問題を授業で扱うようにしています。
算数科からは、「1回の授業でここまで進んで下さい」という単元進行表を担任の先生に出しますが、その中に「授業のここで、アイテムの▲ページの■番の問題をここでやってください」と書いて渡しています。担任の先生が、教科書でここまで進んだら、一緒に「アイテム」のこの問題をセットでやればいんだな、と分かるようにしています。計画通りに出来ないときもありますが、「ここにアイテムの問題を入れている」というのは、「授業の中で一緒にやってほしい」というメッセージを私たちが込めているということなんですね。「アイテム」については、そのような方法で活用しています。
宿題として「アイテム」をやるケースもあります。例えば『小数の大小』を学習したときには、「教科書の問題」+「アイテム」の■番をやるというやり方をしています。なかなか「アイテム」だけをまとめてやることが難しいので、その時その時に問題をピックアップしてちょこちょこ活用しています。加えて、例えば教科書『整数×小数』、「80×2.3」「80×0.6」の学習をした時に、「アイテム」の問題(17p「小数のかけ算(1)」、「活用する力をつけよう」の2-資料②- のように)をやりました。問題文は、「重いですか、軽いですか」という問いになっているので、解答は「軽い」「重い」で答えればいいんです。そこで、なぜ答えが「軽い」になるのかを自主勉で分かるように説明しておいで、と自主勉でもう一度やらせるようにしました。そうすると、図で説明をして「~なので重いです」とか、文章と式で説明して「~だから軽いです」というようにやってきました。他にも、数値を替えたものでもう一度やっておいでと、4年生の芝先生と同じようなやり方でやっています。
やっぱり(「アイテム」の問題は)2回やらせたいんですね。16p「小数のかけ算(1)」-資料③-は、授業の中で数値を変えてやりました。「アイテム」にある「テーマ(導入)」は、まだ理解がちょっとできていない子にとって(ここを読めば問題が解けるので)助かっています。21p「小数のかけ算(2)」、「チャレンジしよう」の2-資料④- も、計算のしくみが載っているので、こういう部分はうまく授業で活用しています。
あるクラスでは、「テスト勉強しておいで」と担任の先生がいうと、自主勉で「アイテム」を順番に、ひたすらずーっともう一度やってくる子どもがいます。ノートに「アイテムのポイント」と書き込みをしたりしながら書いている子もいますね。すきな子は本当に何度も何度もやっています。基本的には本体に書き込ませてしまいますが、それでも答えを見ないようにして、ノートにまたやってるみたいです。
自主勉でいいページがあると、「こんなにいい自主勉があったよ」とコピーをして教室の後ろに貼って紹介したりもしています。自主勉は算数だけではなくて、いろんな教科が混じっています。社会や理科や国語もありますので。
藤野先生
6年生もほぼ5年生と一緒です。基本的には「じっくりコース」も「がっちりコース」も、テストの前までに「活用する力をつけよう」まで全員必ず終わらせるようにしよう、ということにしています。6年生はこの間まで「分数のかけ算」をやっていたんですが、「アイテム」6p「活用する力をつけよう」の2-資料⑤- のように、□(四角)にあてはまる数を求める問題は、教科書には出てきません。でもこの問題は、今まで学習してきていることを、分数の計算になっても使えるいい例なんです。今の5年生は、去年□をつかった計算はやってきているので、5年生ではこの部分を1時間プラスして授業でやってみようということになり活用してみました。授業では、「去年この□を使った計算を勉強したけど、どうやって使うんだったっけ?」と問いかけてみて、次に「分数ではどうだろう」と進めると、その時点では全員理解するところまで到達するんです。授業でやるときはプリントで渡しておいて、今度は「アイテム」に書き込んでいいからもう一度やってみよう、といってまとめの時間にもう一度やりました。「がっちりコース」の子はこの流れですとあっという間に出来てしまって「チャレンジしよう」までいってしまいます。「じっくりコース」の子も、「チャレンジしよう」をやってみて分からない問題が出てきたら先生に聞いてもいいし、まわりの子と教え合いっこしてもいいよと言ってあります。子ども同士の繋がりをこの「チャレンジしよう」で付けているところもありますね。計算ドリルと「練習しよう」「たしかなものにしよう」の部分は、毎日の宿題の中に取り入れてやることもありますし、給食準備中に取り組んでいるの「はなまるタイム」(さかのぼりの時間)にもやっています。アイテムを持ってこさせて、計算ドリルの中で自分が苦手なところをやりましょう、と子どもたちに伝えます。小数の割り算が苦手な子には、「ここやりましょう」とこちらで指示します。時間が短いので半分しか出来ないときもありますが、「半分終わったから全部やります!」と言って頑張る子もいますね。中には自分でやるところを選んでやる子もいます。
他には、テスト問題として活用することもあります。授業の中でやって宿題でもやっているのに、テストで間違えてしまう子も結構います。やっぱり「アイテム」は難しいのでしょうね。教科書にない問題もありますから。でも学力テストには出題される時がありますから、どうしても教科書の内容だけでは立ち行かない・・・。「アイテム」は、教科書が終わってまとめの時間をやる前に1時間とってやったりもしています。
現行版の6年生は、補充テキストの方がやる単元が多いですよね。今年やらなくてもいい単元が本体にたくさんはいっています。これはちょっと・・・という声がクラス担任の先生からでています。補充テキストになると問題数も少なくて。「アイテム」だけでは足りなくてプリントを作ったりして対応しております。
「アイテム」と補充テキストとそれぞれの解答も含めると4冊になるので管理が大変でした。
*「アイテム」は、1年前倒しで新学習指導要領に対応。2010年春に改訂版を発刊しました。
新学習指導要領の導入を踏まえて
齊藤
現在は移行措置対応期間になっていますが、23年度より新学習指導要領が導入されますよね。授業時間の確保や単元進行などで苦労されている学校さんが多いように見受けられます。
長野小学校さんではどのような工夫をされ、「アイテム」を活用されているのですか。
学校長
導入の時間を割いて演習や活用問題に当てているということに支障はないのかな?
芝先生
その分スピードアップして指導しているということでしょうか。
4年生では、:導入に当てる2時間を1時間に短縮して進めることで、演習の時間を捻出したりする事もあります。その分、なるべく多くの問題に当たらせてあげたいなと思うので。
指導書に記されている、ひと単元に要する時間数はあくまで参考(めやす)と捉えています。子どもたちにとっても、比較的簡単な単元に時間数が裂かれていて、難しくて子どもたちが理解しにくい単元なのにこれだけしか時間を取ってないの?と感じることもありますので。新しい単元を振る前に、ある程度子どもたちの反応や理解度も予想して入るようにしています。
東尾先生
本校では、学習評価からの授業改革というのがもうひとつの柱になっています。
教師でテストを作っていますが、その中には記述の問題も入れていますし、教科書には載っていないけれどテストに出してみて、その結果から「この授業はいけなかったかな」とか逆に「授業でちゃんとやったからできているんだな」と検証しながら進めています。
学校長
新しい教科書では教育内容が30%増える、といわれています。でも授業数は10%しか増えていないんです。単純に考えたら、授業時間内で全て消化しようというのは厳しいですよね。だから、教科書の中でも「これはお家でやっておきましょう」というような自主学習に当てる部分が作られているとは聞いています。それならば学校も教師側も意識を変えて、最初から最後までびっちり教えるというのではなく、指導するべきポイントは教師がきっちり抑える、この部分は子どもに任せる、というような流れになるのではないかと思っています。そのあたりの認識をしっかり持っていれば、学習内容が増えても対応していけるのかな、と思いますね。それにしても教科書+αの部分をどのように入れていくか、は本校でも課題といえば課題ですね。そのあたり、現在現場ではどう対応しているのかな。
東尾先生
少なくとも4,5,6年は単元ごとに検証しています。行事も踏まえた上で、年間の授業数を数え、どの単元に何時間使うか考えないと、進行表はとても組めません。いつも(単元表)とにらめっこしながら計画を立てています。例えば5年生には、「振り返ろう」というページが教科書にあります。本校では、これは分散させてプリントの中に入れて宿題でやらせてます。4年生もそうですが、プリントは凄くたくさん作っています。単なる計算問題だけでなく、考えさせる問題もしっかり入れ込んでいるし、振り返りの問題も入れます。有り難いことですが、そうして私たちがつくった問題を担任の先生がちゃんと見てくださっているんですね。ひとりひとりの子が、どの問題でどのように躓いているか、またフォローが必要であれば「はなまるタイム」に呼んでくれたり、間違えた問題のプリントをちゃんと持たせてくれたりします。算数科と担任の先生とタッグを組むことで、授業が一時間分空いてくるんです。そこに「アイテム」を当てるんですね。現在は最初の「習得」のページ(「練習しよう」「たしかなものにしよう」)は、宿題にしてもそれなりにやってきます。ですから授業では、それ以降のページをやるようにしようと思っています。全部は無理でも、ここはという問題はやりたいですね。
家庭学習、自主学習の進め方
西山氏
自主学習、家庭学習をうまく子どもに進める上での工夫はどういう点でしょうか。
東尾先生
出来るだけ「2ページまとめてやってきて」という言い方はやめて欲しいといわれますね。「今日ここを授業でやったけど、アイテムの▲ページを開いてごらん。似たような問題があるよね。もう一回やってみる?」という指示の仕方だと子どももやりやすいみたいですね。
西山氏
「アイテム」を採択する前の家庭学習はどのように出されていたのですか。
芝先生
プリントが多かったですね。
東尾先生
授業でやった後に授業内容に対応した問題をプリントにして宿題にしていました。
芝先生
過去何年間か、先生方が作られたプリントが学校に残っています。以前作ってくださったものを参考にしたり、使わせていただくことも出来ましたので。
東尾先生
河内長野市が購入しているデータベースも活用できます。大阪府(教育委員会)がつくってくれているワークシートや単元テストもウェブ上にありますので、それも参考になります。
西山氏
家庭学習の出し方、指示のされ方もここ何年かで変化してきていますか?宿題に計算問題だけでなく活用の問題を入れるなど。
東尾先生
割合からすると計算問題が多くなってしまいますね。宿題は、前提として子どもたちが(自学自習で)出来るものにしています。活用問題でも、今まで全くやった事のない問題を(宿題で)ポンと出したら、子どもは「分からない~」「出来ない~」という状態になってしまいます。ですから宿題では、授業でやった内容によく似た問題になるでしょうか。
芝先生
そうですね、やはり「今日授業でやった問題の練習問題」+「活用の問題」という感じですね。
保護者の反応
西山氏
このような学校の取り組みについて、保護者の方からの反応というのはどうですか?
東尾先生
今年はまだ(反応というものは)ないんですが、去年4年生で「アイテム」を始めて、テストや宿題に問題を入れていくようにしたら、ある保護者の方が喜んでくださいました。算数が凄く出来るとか出来ないということでなく、普通のお子さんです。今まで、自分が考えた事をノートに書くとか、冷蔵庫やおふろの長さを測って体積を求めるというころを宿題にしたことがなかったんですが、出すようにしたら宿題を楽しんでやっています。という声をいただきました。それはとても嬉しかったですね。
芝先生
4年生はクラスを少人数に分けて指導してもらえる点が(保護者の方に対して)大きかったようです。授業参観で見られたときに強く感じたようで。少人数にすることで出来る内容が増えて、幅が出ましたから。例えば、子どもが分からない問題に出会ったら、その場で聞けて解決できます。授業の進め方、やり方が変わった事について(保護者の方に)言われる事が多いですね。
ノート指導の工夫
西山氏
ノート指導について工夫されている点はありますか?
齊藤
ノートの取り方を拝見すると、論理的に順序立てて説明をしていく書き方がかなり出来て上がっているように感じますが。
東尾先生
4,5,6年で共通して行っているノート指導がありましたが、本研究が始まって3年目に、全学年で少しずつ取り組んでいこうということになりました。まず、4,5,6年の算数では、このようなノートの取り方を指導しています、ということを他の学年の先生に紹介したんです。1年生など学年によっては出来ない部分がまだあるので、そのあたりは学年で工夫してもらっています。日付を書く、といった基礎的な部分から、「問題と課題を書く」、「自分の見通しを持つ」、「振り返り」はこのようにおこなったらいいですよ、といった簡単なモデルケースを作って各学年に提案をさせて貰ったといのが今年の試みです。本当は全学年で通せたらいいのですが、一気にそこまで通すのは難しいので、どの程度までやるかは学年にお任せしています。でも、ノートを取るときはこういう感じ、というイメージが学校全体で共有できれば、それが積み重なって繋がってくるかな、と思います。算数科で提案したものを国語科も取り入れたいという事になって、今年度国語科の方も動き出しています。
ひと学年5クラスもしくは4クラスあるので、各学年でまず統一した指導方法が行えるように、学年の中で話し合いをしてもらっています。
東尾先生
昨年1年間で徹底して行ったのは、「まず~」「次に~」「そして~」「だから~」という書き方、説明の仕方をするということです。その結果、「これについて説明をしなさい」と私たちが問うと、今年は何も言わなくても「まず~」「次に~」「そして~」「だから~」と子どもたちは書きますね。とにかく「まず」「次に」「そして」「だから」が出ます。そこから脱却して欲しいという思いもあるのですが、なかなか脱却しなくて。このやり方は、今の4年生も引き継いでくださっています。
芝先生
今の5年生のノートを見て、論理的な文章が書けるようになっているなと感じたので、「まず」「次に」「そして」「だから」をキーワードとして、今年の4年生にも実践しています。でも最初は、なかなかこのキーワードを順番に使って文章が書けない子もいます。そういう子には番号を付けて文章を書くことを薦めています。4年生には「まず」という言葉を使えない子もいるので、そういう時は、1番目に自分はこう考えた、2番目にこう考えた、というように数字を使い、考えた事を(箇条書きにして)書くようにしています。子どもが考えた順序と、思考を大事にしたいなと思ってやってみています。
西山氏
PISA型学力を推し進められていく中で、算数以外の教科への影響は出ていますか。
東尾先生
ありますね。国語の授業、特に説明文の時などは時系列を追って文章を書くことができているかを見ます。このあたりは国語と算数、両教科で勧めているメリットですね。算数科で「これはどうかな」と提案すると、国語科では「こうだ」というように繋がります。順序立てて物事を考えることや、必要な情報を取り出すことは社会科や理科でも同じですよね。国語、算数でやっていることは、どの教科にも繋がってくると思っています。実際の成果として出ているか、というところまでは分からないですが。きちんと検証した事はないので。
学校長
単元指導の強弱は、実際子どもに力がついていることが実証されているので大丈夫なんだと確信はしていますし、先生方を信じている点があります。本校は4,5,6年に対し、算数科で少人数・習熟度別指導が出来るように、先生が3人加配されている点が大きいです。単なる少人数指導に留まらず、算数科で対象学年・全クラスの問題や単元表を作ったりしてくれる。そういうポジションに立って算数指導を進めてくれる先生がいる、そういう体制が取れるという点で貢献度が非常に高いなと思います。何しろ専科の先生が教えているわけですから。それは本校の子どもの学力向上に対する意気込みでもありますけどね。実際に結果が出ていますから。結果についての詳しい内容は、11月26日の学習研究会で発表する予定です。
文部科学省の全国学力テストは、基本的に他校と比べることが目的でされるテストではないです。ですから、全国平均から見て本校はどうかという比較になりますね。テストの結果については先ほどお伝えしたとおりです。全国平均に比べて、本校はB問題の結果が7から10ポイント高いという点に表れていると思っています。地域性を考えた場合、決してこの地域が経済的にも家庭的にも突出して恵まれているという訳ではありません。中には塾に通っているような子どももいますけど、それ程多くの子どもが通っているというわけではありません。学校と家庭とで、両方の指導がよくマッチしていると思います。学校だけで全てがうまく進められるということではありません。宿題をしっかり家庭でやってもらうという事は大切ですから。家庭学習状況調査の結果から見ても、全国平均に比べて月曜日から金曜日までの家庭学習の時間というのは、本校は多いです。(読書の時間は何故か少ないのです。何でか分かりませんが。)中学に入ってから、小学校での積み上げの成果はあると思いますよ。
東尾先生
11月の研究発表会でお伝えしようと思っている資料のひとつですが、子どもたちのアンケートで「算数の解き方が分からないときは、あきらめずにいろいろな方法を考えようとしていますか」という質問に対して、「はい」という解答がとても多かったんです。特に高学年でも「はい」と答える子が多かった。これについては凄いな、と私たちも思います。算数については、子どもたちの中に確実に積み重なってきているんだな、と実感して嬉しく思いました。
齊藤
ぜひ、研究会では長野小学校の授業を拝見させて頂きたいですね。
学校長
どうぞどうぞ、実際に見ていただくのが一番分かりやすいと思います。
齊藤
授業が拝見できます事を楽しみにしております。
西山氏
本日は本当にありがとうございました。
*取材にご協力をいただきました大阪府河内長野市立長野小学校様には、心より感謝御礼を申し上げます。
*本記事は、学校様のご了解をいただいた上で掲載いたしております。外部転載等につきましては固くお断り申し上げます。
平成20年度より3年間、文部科学省委嘱学力向上実践研究推進事業の指定を受け、PISA型学力を重視した授業作りに取り組んできました。
4年の研究授業(2010年11月26日)の一コマ。「いくつかの都道府県の人口を使って大阪の人口と同じくらいにしよう」の問いが出されました。
6年の研究授業から。「生活を工夫して二酸化炭素の排出量をどれだけへらせるか?」。生活に密着した問題が出されました。